庚申御遊の宴【第一話】

文字数 833文字

「日は香炉(こうろ)を照らし紫煙(しえんを )(しょう)

 遥かに()瀑布(ばくふ )前川(ぜんせん)()くるを

 飛流直下三千尺(ひりゅうちょっかさんぜんじゃく)

 (うたが)ふらくは是れ銀河の九天(きゅうてん)より落つるかと」

『望廬山瀑布』 李白


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 光の束が見える。
 暑苦しい夏の夜。
 空には雲ひとつなく、星が瞬く。
 僕の背後にある大きな滝から、その光は現れた。
 発光するバスケットボールくらいの大きさの球が、三つ空中に浮かんでいる。
 僕のこめかみを汗が伝う。
 僕はとっさに、
竜燈(りゅうとう)だ……」
 と、呟いた。
 竜燈、というのがなにを指すのか、僕にはわからなかったが、そう呟いた。
 その三つの光の球、……おそらくは竜燈が指すものであろうそれは、僕の頭上でぐるぐるまわる。
 まわればまわるほど、その数を分裂しながら増やしていく。
 分裂した球は、オリジナルの大きさに一瞬で成長する。

 ここは丘の上だった。
 丘の上の古刹。
 寺だ。密教寺院の建物が、滝の横に建てられている。
 寺にあかりはともっていない。

 光の球はぐるぐるまわったかと思うと、50個ほど集まり、それは束になり、ここから見える、海の方へと、光の尾を引いて飛んでいく。
 飛んでいく束になったその光は、確かに〈竜〉の形にほかならなかった。

 丘の上の光の束は。
 そこから、飛翔して、海へ。

 竜燈は、大きな一個の光の球になり、光は海辺で花火のように打ち上がる。
 腹にも響く轟音が鳴った。
 その打ち上げ花火の炸裂音は、竜の雄叫びと言うにふさわしかった。
 これは。
 これはまるで。
 山祇( やまつみ)と龍神のコラボレーションによってつくられたかのようじゃないか!
 僕にはそう思えた。
 そして、意識はそこで絶える……。

 ……………………。
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登場人物紹介

破魔矢式猫魔(はまやしきびょうま):探偵

小鳥遊ふぐり(たかなしふぐり):探偵見習い

萩月山茶花(はぎつきさざんか):語り手

百瀬珠(ももせたま):百瀬探偵結社の総長

枢木くるる(くるるぎくるる):百瀬探偵結社の事務員

舞鶴めると(まいつるめると):天狗少女。法術使い。

更科美弥子(さらしなみやこ):萩月山茶花の隣人。不良なお姉さん。

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