泰山に北辰尊星の桜吹雪を【第四話】

文字数 1,178文字

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 さて。陰陽道は国家、朝廷が独占することになったのはよく知られていることだ。暦法と占筮(せんぜい)を独占することは、古代の国家にとっては民衆を支配するのにとても役に立った。暦法、つまりカレンダーと、占筮と呼ばれる占星術。このふたつを司るのが、陰陽師だったってわけだ。
 もうすぐ星祭りの季節が来る時期だから、今回は陰陽祭祀のひとつ、〈星辰信仰〉の話をかいつまんでしたいと思う。素敵だろう? 星祭りなんてさ。おれはあまり好きじゃないけどね。
 日本の記紀神話と言えば、太陽信仰だ。天照大御神は太陽だろう。
 だが、道教的色彩が強い陰陽では、北極星を、最高神とするんだ。北極星といえば、いつも動かないように見える星だ。そりゃ信仰は集めるさ。占いにとっても、重要な星だ。
 星辰信仰の「辰」とは竜神を指す。万物の恵みを司るんだ。もちろん、十二支のひとつさ。十干十二支(じっかんじゅうにし)は、陰陽道の基本だ。陰陽五行説の解説は……君たちにはいらないだろうね。なにせ占い好きの君たちだ。言うだけ野暮ってもんさ。
 あらゆる星々が北極星を中心に巡ることから、北極星は宇宙を司る神となった。北極星の位置する星座を、中宮と言い、天帝の常居だ、とされた。特に北極星を、〈北辰〉と呼び、天帝の化現した姿だ、という解釈がされたんだな。天皇の語源もここから来ている。最高神とひとを繋ぐ神官を意味するのが、天皇という言葉だ。
 北辰は、そこから日月が生じて、五を生じ、五星となり、それがすなわち、五行となる。
 五行からはひとが生まれ、人間の根源をたどれば、必ず北辰に至る、とされる。
 北辰は道教の〈太一〉とも同一視される。密教でも北辰は〈妙見菩薩〉の化現した姿として崇拝された。
 そして、陰陽道の最高神、〈泰山府君〉もまた、北極星であり、仏教的には妙見菩薩、または北辰菩薩と呼ばれるんだ。

 ここまで来ると、日本の古典文学や古典芸能でも、お目見えするかたちになるのは、知っての通り。そう、泰山府君と言えば、能楽にもその名が出てくる。

 部類の桜好きの中納言藤原成範が、愛した桜があった。柵で囲い花守をつけ、中納言は七日間ほどの短い桜の花の命を惜しみ、その命を延ばそうと、生類の命を司る神である泰山府君の祭をする。
 天上より天女が降り立ち、桜の花のあまりの美しさに一枝を手折り、羽衣の袖に隠し、昇天して行く。
 祭の場に泰山府君が現れ、天女を天上から呼び下し、盗んだ花の枝をもとの木に戻させ、大いに神威を見せ、桜の花の命を二十一日間に延べ、昇天していく。

 どこかで聞いた話だろう?
 そう、この学校は、桜の季節が終わったのに、まだ桜が狂い咲いているね。
 もしかしたら、泰山府君が関与しているのかもな。
 君たちのなかの、中納言藤原成範にあたる人物は誰なのかな。

 おれからの話は、以上だ。ご静聴、ありがとうございました。



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登場人物紹介

破魔矢式猫魔(はまやしきびょうま):探偵

小鳥遊ふぐり(たかなしふぐり):探偵見習い

萩月山茶花(はぎつきさざんか):語り手

百瀬珠(ももせたま):百瀬探偵結社の総長

枢木くるる(くるるぎくるる):百瀬探偵結社の事務員

舞鶴めると(まいつるめると):天狗少女。法術使い。

更科美弥子(さらしなみやこ):萩月山茶花の隣人。不良なお姉さん。

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