夜刀神が刀は煙る雨を斬るか【第六話】
文字数 1,060文字
☆
背丈の異様に大きい男の背後をふぐりと追うことになった。
男が路地裏に入る。
「どういうことだい? あの男、こんな時間に、どこへ向かっているんだい」
男が振り向いたので、僕とふぐりはサッと身を潜める。
「バカ山茶花。バレるでしょうが」
「いや、よくわかんないんだけど」
「もうこの事件は解決したようなものなの」
「余計と意味がわからない」
「あいつが犯人よ」
「はっ? なんのだい」
「最近、野犬や鳥を食い散らかした跡が市内にたくさん見つかっている話、知ってるかしら」
「ああ。知ってる」
「犯人は、あいつよ」
「え……。人間が、鳥や獣を食べている、と」
「そうよ」
「ヤバいね」
「ヤバいわよ。あたしたちの仕事にヤバくない件なんてないわよ」
「そりゃそうだ」
「じゃ、事件を目撃するために、追うのを続けるわよ」
「おう」
そして、潜んでいたところから出てみると。
背丈の大きなその〈犯人〉は、首を切断され、胴体から大量の血液が噴き出しているところだった。
「ふぐり。殺人事件になっちゃったけど」
胴体がどさりと崩れ落ちた。
血だまりに、大粒の雨が混じる。
ふぐりは顔を青ざめさせている。
「ど、どういうことなの……」
「こっちが聞きたいよ」
「うっさいわね!」
血だまりの向こうに、生首の髪の毛を掴んで持っている少女がいた。
少女は蛇の着ぐるみパジャマを着て、こっちを見ている。
「見たでごぜぇますね?」
見てない、と言ってもダメだろうな、と僕は思ったので、
「見たよ。君は誰だい」
と、尋ねてみる。
少女は笑う。
「わたしはうわばみ姫でごぜぇますよ。通りすがりの正義の味方、でごぜぇます」
「へ……へぇ」
僕は相づちを打つしかない。
ぬるい雨が僕らに降り注ぐ。
僕もふぐりも傘はもう手放している。
少女も傘を差していない。
少女は人間とは思えない大きな口を開けて、生首をぺろりと平らげる。
がりがりと頭蓋骨をかみ砕く音が路地裏に響く。
大きな咀嚼音を出して、少女は生首を食べ終える。
僕とふぐりはそれを見ている。
少女が男の生首を食べ終えた途端、雨が止む。
「夜刀神 ……と言えば、〈魔女〉にはわかるでごぜぇますよ?」
立ちすくむ。蛇に睨まれるネズミは、こんな気分だろうか。
少女は路地裏から消えた。
僕らはそれをずっと見ていた。
動けなかった。
僕らが動けるようになって事務所のあるビルに戻ったのは、三十分後のことだった。
背丈の異様に大きい男の背後をふぐりと追うことになった。
男が路地裏に入る。
「どういうことだい? あの男、こんな時間に、どこへ向かっているんだい」
男が振り向いたので、僕とふぐりはサッと身を潜める。
「バカ山茶花。バレるでしょうが」
「いや、よくわかんないんだけど」
「もうこの事件は解決したようなものなの」
「余計と意味がわからない」
「あいつが犯人よ」
「はっ? なんのだい」
「最近、野犬や鳥を食い散らかした跡が市内にたくさん見つかっている話、知ってるかしら」
「ああ。知ってる」
「犯人は、あいつよ」
「え……。人間が、鳥や獣を食べている、と」
「そうよ」
「ヤバいね」
「ヤバいわよ。あたしたちの仕事にヤバくない件なんてないわよ」
「そりゃそうだ」
「じゃ、事件を目撃するために、追うのを続けるわよ」
「おう」
そして、潜んでいたところから出てみると。
背丈の大きなその〈犯人〉は、首を切断され、胴体から大量の血液が噴き出しているところだった。
「ふぐり。殺人事件になっちゃったけど」
胴体がどさりと崩れ落ちた。
血だまりに、大粒の雨が混じる。
ふぐりは顔を青ざめさせている。
「ど、どういうことなの……」
「こっちが聞きたいよ」
「うっさいわね!」
血だまりの向こうに、生首の髪の毛を掴んで持っている少女がいた。
少女は蛇の着ぐるみパジャマを着て、こっちを見ている。
「見たでごぜぇますね?」
見てない、と言ってもダメだろうな、と僕は思ったので、
「見たよ。君は誰だい」
と、尋ねてみる。
少女は笑う。
「わたしはうわばみ姫でごぜぇますよ。通りすがりの正義の味方、でごぜぇます」
「へ……へぇ」
僕は相づちを打つしかない。
ぬるい雨が僕らに降り注ぐ。
僕もふぐりも傘はもう手放している。
少女も傘を差していない。
少女は人間とは思えない大きな口を開けて、生首をぺろりと平らげる。
がりがりと頭蓋骨をかみ砕く音が路地裏に響く。
大きな咀嚼音を出して、少女は生首を食べ終える。
僕とふぐりはそれを見ている。
少女が男の生首を食べ終えた途端、雨が止む。
「
立ちすくむ。蛇に睨まれるネズミは、こんな気分だろうか。
少女は路地裏から消えた。
僕らはそれをずっと見ていた。
動けなかった。
僕らが動けるようになって事務所のあるビルに戻ったのは、三十分後のことだった。