道現成は夢む、塗れた華の七仏通誡偈【第一話】
文字数 1,184文字
『
☆
「こんな深夜帯に、事務所でパソコンに鍵盤繋いでなにやってるんだい、くるるちゃん」
湿度が高い今は春から夏へ変わる時期。
気候の変化の起伏が最近は滅法激しい。
除湿機をかけた
その現場を、たまたま事務室に来た僕が見つけた、というわけだ。
窓の外は真っ暗だ。夜空は、今夜は曇り空、星々はその姿を隠している。
「そんなことの推理も出来へんから、
僕は百瀬探偵結社の雑用係の
オレンジ色のパーカーの袖で目をこすり、あくびをしながらくるるちゃんのデスクの上にあるパソコンを眺める。
「この横向きの棒グラフは一体なんだい?」
「ピアノロール言うんやよ。今、MIDIキーボードで曲のラフつくりに、MIDIキーボードをリアルタイム入力で打鍵してたとこなんよぉ」
全くわからない。
僕は知識不足だった。
でも、興味がある。
枢木くるるちゃんは百瀬探偵結社の事務所の事務員であると同時に、女子高生DJなのだ。
自身の盟友である
ユニットの人気は上々。
鍵盤も叩いていることだし、音楽関連の作業なのだろう。
知らない世界に、好奇心が湧く。
この〈女子高生DJ〉は、一体なにでなにをしているのか。
くるるちゃんはランチパックを平らげると、
「やっぱツナのランチパックが一番やわぁ」
と言って、湯飲みに口をつける。
湯飲みに入っているのは甘酒なのは、ただよってくる甘い香りとアルコールの匂いでわかる。
くるるちゃんは湯飲みを鍵盤の脇に置くと、事務椅子をくるりと回して、僕の方に向き直った。
くるるちゃんの桃色の、少し跳ねたボブカットが揺れる。
「山茶花に、教えてあげへんこともないんやけどぉ?」
笑顔が眩しいくるるちゃんは、深夜帯でも笑顔で。
だけど、ちょっと疲れているのもわかるし。
偉い子だなぁ、と僕は思った。
「うちのためにあとでカレー南蛮こしらえてなぁ、山茶花」
僕はちょっと吹き出して、
「わかったよ、くるるちゃん」
と、頷いて約束をした。
「MIDIっていうんはなぁ……」
嬉々と語りだすくるるちゃん。
自分の好きなものについて語るのは楽しいよね。
それを聴く僕も楽しくなりそうだ。
僕はくるるちゃんと向かい合うようにソファに腰を下ろし、話を聴く態勢に入った。