泰山に北辰尊星の桜吹雪を【第三話】
文字数 1,594文字
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もう葉桜の季節だ。
なのに、この女子校に続く桜並木のソメイヨシノはどうだ。
なんと、ほかの場所では葉桜になっているのに、この並木道、それから学校の校庭にある桜は全部、満開である。
狂い咲きとはまた違う……咲くのが遅かったのか?
いや、そんな話は訊いていない。
むしろ〈咲き続けている〉ことで、ちょっとしたニュースになっているのだ、この女子校のソメイヨシノは。
僕は樹の上を眺めながら歩く。
着いたのは常陸女子高等学校。
うちの探偵事務所、〈百瀬探偵結社〉で働く、女子高生探偵の小鳥遊 ふぐりの通っている学校に到着したのである。
百瀬珠総長の命令で合法だとは言えども、女子校に入っていくのは、恥ずかしい。
それはともかく。僕はふぐりのいる教室を探すことにした。
授業が始まる。
教壇に立つ女性担任教師が、軽く説明する。
「えー。今日は抜き打ちで父兄参観日とさせていただきました。常陸女子高等学校がどんなカリキュラムを組んでいるか、父兄の方々に見てもらった方が良い、との校長先生のご判断によります。特別授業はありますが、みなさんは普通に授業をこなすだけで、心配はいりませんよ。教室後ろに父兄の方々に立っていただいているだけですからね」
クラス全員の「えー?」という不満の声が、大きく上がる。
父兄として、僕は珠総長に言われて参観日に来ていて、目当てはここの学生の小鳥遊ふぐりだ。
金髪ロングの髪に大きなリボンでポニーテイルにしているのだ。
即座にふぐりの姿を補足できた。
そのふぐりが、教室後方を見て、僕を見つけると椅子から立ち上がった。
「なんで山茶花が父兄参観に来てるのよーッ! 父兄でもなんでもないでしょうが! あたしとあんまり歳変わらないでしょう山茶花はぁっ! やめてよね、気持ち悪い! 全く、なんで珠総長が参観に来ないのよー!」
周囲を見渡してから、僕はふぐりに向けて言葉を放つ。
「いやさ、これ、珠総長からのお達しで来てるんだよ、僕は」
「くるるだっているじゃないの! 総長に観て欲しかったし、そうじゃなきゃ来るのは枢木 くるるじゃないの!」
「いや、くるるちゃんも事務所で事務職やってるけど、ふぐりと同じく女子高生でしょ。そして珠総長は最初から僕に任せてて来る予定はなかったけど、昨日僕の部屋で、僕と猫魔がスコッチ飲んでたときにやってきたんだ。酔い潰れて自分の部屋に戻っていったからね、百瀬珠総長は。だから、万が一にも来ない。総長の性格を考えてみなよ。来るわけないし、理由だって出来たわけだし。ないものねだりはやめるんだ、ふぐり。僕は父兄。慈しむ目で、小鳥遊ふぐりの生き様を焼き付けるよ」
「いーーーーーーーーやーーーーーーーーーーッッッ」
「私語は慎んでね、小鳥遊さん。あと、父兄の方も」
ふぐりの担任教師が言う。
「あ、はい」
僕は頷く。
「納得いかないわ!」
机を両手の平で叩く小鳥遊ふぐりはとても怒っているようだ。
「はい。それでは授業を始めたいと思います。今日は特別講師の方にもお越しいただいています。父兄の方々にも勉強をしていただきたいと思いまして、まずは、〈ためになる〉特別授業を講師の方にしていただきます。それでは。破魔矢式さん、教室の中にお入りください」
扉をスライドして教室に入ってきたのは。
「どうも。ご紹介にあずかりました、破魔矢式猫魔です。よろしく」
「……………………」
黙りながら僕は、ジト目で猫魔の顔を見てしまった。
「なんであんたまで来るのよぉー!」
猫魔を普段ライバル視しているふぐりにとって不服らしい。
立ち上がって教壇の猫魔を指さしてキーキーわめいている。
まあ、そりゃそうだ。
僕だって今初めて講師をする、その姿を観て驚いている。
探偵、登場。
いや。
探偵、登壇。
僕以上に、なにしてんだ、あいつは。
全くわからない。
そして、授業が始まる。
もう葉桜の季節だ。
なのに、この女子校に続く桜並木のソメイヨシノはどうだ。
なんと、ほかの場所では葉桜になっているのに、この並木道、それから学校の校庭にある桜は全部、満開である。
狂い咲きとはまた違う……咲くのが遅かったのか?
いや、そんな話は訊いていない。
むしろ〈咲き続けている〉ことで、ちょっとしたニュースになっているのだ、この女子校のソメイヨシノは。
僕は樹の上を眺めながら歩く。
着いたのは常陸女子高等学校。
うちの探偵事務所、〈百瀬探偵結社〉で働く、女子高生探偵の
百瀬珠総長の命令で合法だとは言えども、女子校に入っていくのは、恥ずかしい。
それはともかく。僕はふぐりのいる教室を探すことにした。
授業が始まる。
教壇に立つ女性担任教師が、軽く説明する。
「えー。今日は抜き打ちで父兄参観日とさせていただきました。常陸女子高等学校がどんなカリキュラムを組んでいるか、父兄の方々に見てもらった方が良い、との校長先生のご判断によります。特別授業はありますが、みなさんは普通に授業をこなすだけで、心配はいりませんよ。教室後ろに父兄の方々に立っていただいているだけですからね」
クラス全員の「えー?」という不満の声が、大きく上がる。
父兄として、僕は珠総長に言われて参観日に来ていて、目当てはここの学生の小鳥遊ふぐりだ。
金髪ロングの髪に大きなリボンでポニーテイルにしているのだ。
即座にふぐりの姿を補足できた。
そのふぐりが、教室後方を見て、僕を見つけると椅子から立ち上がった。
「なんで山茶花が父兄参観に来てるのよーッ! 父兄でもなんでもないでしょうが! あたしとあんまり歳変わらないでしょう山茶花はぁっ! やめてよね、気持ち悪い! 全く、なんで珠総長が参観に来ないのよー!」
周囲を見渡してから、僕はふぐりに向けて言葉を放つ。
「いやさ、これ、珠総長からのお達しで来てるんだよ、僕は」
「くるるだっているじゃないの! 総長に観て欲しかったし、そうじゃなきゃ来るのは
「いや、くるるちゃんも事務所で事務職やってるけど、ふぐりと同じく女子高生でしょ。そして珠総長は最初から僕に任せてて来る予定はなかったけど、昨日僕の部屋で、僕と猫魔がスコッチ飲んでたときにやってきたんだ。酔い潰れて自分の部屋に戻っていったからね、百瀬珠総長は。だから、万が一にも来ない。総長の性格を考えてみなよ。来るわけないし、理由だって出来たわけだし。ないものねだりはやめるんだ、ふぐり。僕は父兄。慈しむ目で、小鳥遊ふぐりの生き様を焼き付けるよ」
「いーーーーーーーーやーーーーーーーーーーッッッ」
「私語は慎んでね、小鳥遊さん。あと、父兄の方も」
ふぐりの担任教師が言う。
「あ、はい」
僕は頷く。
「納得いかないわ!」
机を両手の平で叩く小鳥遊ふぐりはとても怒っているようだ。
「はい。それでは授業を始めたいと思います。今日は特別講師の方にもお越しいただいています。父兄の方々にも勉強をしていただきたいと思いまして、まずは、〈ためになる〉特別授業を講師の方にしていただきます。それでは。破魔矢式さん、教室の中にお入りください」
扉をスライドして教室に入ってきたのは。
「どうも。ご紹介にあずかりました、破魔矢式猫魔です。よろしく」
「……………………」
黙りながら僕は、ジト目で猫魔の顔を見てしまった。
「なんであんたまで来るのよぉー!」
猫魔を普段ライバル視しているふぐりにとって不服らしい。
立ち上がって教壇の猫魔を指さしてキーキーわめいている。
まあ、そりゃそうだ。
僕だって今初めて講師をする、その姿を観て驚いている。
探偵、登場。
いや。
探偵、登壇。
僕以上に、なにしてんだ、あいつは。
全くわからない。
そして、授業が始まる。