庚申御遊の宴【第七話】
文字数 858文字
☆
その家の座敷に通されると、それは大きな掛け軸がかかっていた。
僕が掛け軸を眺めていると、横の座布団に座っているふぐりが耳打ちするように、掛け軸の説明をしてくれる。
「青面金剛 が〈アマンジャク〉を踏み潰している図なのよ。両サイドにいるのは青衣 ・赤衣 を着た脇侍 、その下には青赤二匹の鬼、猿が三匹、鶏が雄雌二羽描かれている。もともとは農家のひとが怠けているのを見て、〈アマンジャク〉が雑草の種をまいて嫌がらせをしたのね。それを、青面金剛サマってのが怒って、〈アマンジャク〉を踏み潰している。……説明によると、そういう内容の絵の掛け軸なんだそうよ」
そこに、対面 に座っている佐幕沙羅美が、補足を加える。
どうやら、ふぐりの声は丸聞こえだったらしい。
「ええ。当家の屋敷には、青面金剛サマの塔が松の木の根元にあります。塔には天明八年一月三日と書かれていて、その出来事が事実だったことを物語っておりますのよ」
僕は佐幕沙羅美と向き合う。
「出来事が事実……ねぇ。って。なんか音が聞こえてきた。んー、と。……あ。太鼓ですね。太鼓の音が聞こえますね。それも、激しいリズムの音だ。屋敷には沙羅美さん以外、今は誰もいないみたいですが、もしかして」
「そうです。伽藍マズルカサマが、村の者たちに〈厄病送り〉の念仏踊りをレクチャーしているのです。今日は、その踊りで夜通し村中を練り歩く予定です。今は、そうですね、リハーサルが始まる頃だったかしら」
「じゃあ、果肉白衣も、そこに」
「ええ。あの男は、太鼓は叩かず、見物に行っているのです。伽藍マズルカサマを招いたのは当家ですから」
「ふぐり」
「なによ、山茶花」
「行ってみよう」
「念仏踊りのリハに?」
「僕らも見物してれば、そのうち猫魔も来るだろうしさ」
「ふーん。いいけど」
「じゃあ、決まりだ」
僕らは、村を見て歩き調査して、それから集会場に向かうことにした。
その家の座敷に通されると、それは大きな掛け軸がかかっていた。
僕が掛け軸を眺めていると、横の座布団に座っているふぐりが耳打ちするように、掛け軸の説明をしてくれる。
「
そこに、
どうやら、ふぐりの声は丸聞こえだったらしい。
「ええ。当家の屋敷には、青面金剛サマの塔が松の木の根元にあります。塔には天明八年一月三日と書かれていて、その出来事が事実だったことを物語っておりますのよ」
僕は佐幕沙羅美と向き合う。
「出来事が事実……ねぇ。って。なんか音が聞こえてきた。んー、と。……あ。太鼓ですね。太鼓の音が聞こえますね。それも、激しいリズムの音だ。屋敷には沙羅美さん以外、今は誰もいないみたいですが、もしかして」
「そうです。伽藍マズルカサマが、村の者たちに〈厄病送り〉の念仏踊りをレクチャーしているのです。今日は、その踊りで夜通し村中を練り歩く予定です。今は、そうですね、リハーサルが始まる頃だったかしら」
「じゃあ、果肉白衣も、そこに」
「ええ。あの男は、太鼓は叩かず、見物に行っているのです。伽藍マズルカサマを招いたのは当家ですから」
「ふぐり」
「なによ、山茶花」
「行ってみよう」
「念仏踊りのリハに?」
「僕らも見物してれば、そのうち猫魔も来るだろうしさ」
「ふーん。いいけど」
「じゃあ、決まりだ」
僕らは、村を見て歩き調査して、それから集会場に向かうことにした。