庚申御遊の宴【第七話】

文字数 858文字






 その家の座敷に通されると、それは大きな掛け軸がかかっていた。
 僕が掛け軸を眺めていると、横の座布団に座っているふぐりが耳打ちするように、掛け軸の説明をしてくれる。
青面金剛(しょうめんこんごう)が〈アマンジャク〉を踏み潰している図なのよ。両サイドにいるのは青衣(あおころも)赤衣(あかころも)を着た脇侍(わきさむらい)、その下には青赤二匹の鬼、猿が三匹、鶏が雄雌二羽描かれている。もともとは農家のひとが怠けているのを見て、〈アマンジャク〉が雑草の種をまいて嫌がらせをしたのね。それを、青面金剛サマってのが怒って、〈アマンジャク〉を踏み潰している。……説明によると、そういう内容の絵の掛け軸なんだそうよ」

 そこに、対面(といめん)に座っている佐幕沙羅美が、補足を加える。
 どうやら、ふぐりの声は丸聞こえだったらしい。

「ええ。当家の屋敷には、青面金剛サマの塔が松の木の根元にあります。塔には天明八年一月三日と書かれていて、その出来事が事実だったことを物語っておりますのよ」
 僕は佐幕沙羅美と向き合う。
「出来事が事実……ねぇ。って。なんか音が聞こえてきた。んー、と。……あ。太鼓ですね。太鼓の音が聞こえますね。それも、激しいリズムの音だ。屋敷には沙羅美さん以外、今は誰もいないみたいですが、もしかして」
「そうです。伽藍マズルカサマが、村の者たちに〈厄病送り〉の念仏踊りをレクチャーしているのです。今日は、その踊りで夜通し村中を練り歩く予定です。今は、そうですね、リハーサルが始まる頃だったかしら」
「じゃあ、果肉白衣も、そこに」
「ええ。あの男は、太鼓は叩かず、見物に行っているのです。伽藍マズルカサマを招いたのは当家ですから」


「ふぐり」
「なによ、山茶花」
「行ってみよう」
「念仏踊りのリハに?」
「僕らも見物してれば、そのうち猫魔も来るだろうしさ」

「ふーん。いいけど」
「じゃあ、決まりだ」


 僕らは、村を見て歩き調査して、それから集会場に向かうことにした。



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登場人物紹介

破魔矢式猫魔(はまやしきびょうま):探偵

小鳥遊ふぐり(たかなしふぐり):探偵見習い

萩月山茶花(はぎつきさざんか):語り手

百瀬珠(ももせたま):百瀬探偵結社の総長

枢木くるる(くるるぎくるる):百瀬探偵結社の事務員

舞鶴めると(まいつるめると):天狗少女。法術使い。

更科美弥子(さらしなみやこ):萩月山茶花の隣人。不良なお姉さん。

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