手折れ、六道に至りしその徒花を【第四話】

文字数 892文字





 歩く先々に温泉があった。温泉街なのだ、ここは。
 そして、くだんの日帰り温泉の玄関に着く。
 温泉の玄関先で護符を貼った竹製の檻に捕獲されていたのは、怪人・小栗判官だった。
 いや、すでに首を刎ねられていたあとだったが。
 胴体と頭が切断され、檻に無造作に入れられている。
 周囲には大量の血液の絨毯が敷かれている、といった具合だ。
 晒し首、獄門だ。見せしめのように、そこに〈置かれて〉いる。
 蠅やカラスがたかっていて、血のにおいが立ちこめている。

 絶句して僕が小栗の最後の姿を見届けていると、温泉から法衣をまとった仏僧がゆっくりと出てきて、僕の目の前に立った。
「萩月山茶花さん、ですな。わしが井上じゃ。小栗の首なら、さっき刎ねた。さて、我らが拠点・護獄堂にて、裏の政府の話を聞かせてくだされ。この怪人の首を持ち帰れれば、それでいいのじゃろう?」
「…………」
 小栗判官はアヤカシ。人間ではなく怪人。
 だが、無造作に死体を籠にぶち込む人間だぞ、この井上という仏僧は。
 ついて行くべきかどうか、迷う。
「今夜は護獄堂を宿代わりにするといい。ろくな食事は出せないが、食客として、大いに我らは迎え入れよう」
「我ら?」
「末法の『世直し』をせんがために集まった同志たちの修行と実践の場、護獄堂にいる〈護獄団〉の者たちじゃよ」
 さっきの釣り人……孤島、たちか。
「あなたが、小栗にとどめを刺したのですか」
 訊かずにはいられなかった。
「如何にも。わしが現・護獄堂を管理する蓮華法の僧、井上ですじゃ。小栗の首はあなたへの手土産じゃよ」
 小栗判官はアヤカシ。魔性の化け物だった。
 強かった。今まで何度倒し損ねたことか。
 だが、目の前の老僧は、その小栗の首を刎ねた。
 この男に興味が湧かなかったと言ったら嘘になる。
「わかりました。護獄堂という寺へ、案内してください。しかし、もう数十年も前に、護獄堂は〈廃寺〉になっていた、と聞いていましたが」
「わしと同志たちが今は管理しておるのです。村の青年たちの力を借りて、建て直したのですじゃ」
 電話で小栗の死体の処理班を呼び、僕は促されるままに井上の寺、護獄堂へとついて行く。



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登場人物紹介

破魔矢式猫魔(はまやしきびょうま):探偵

小鳥遊ふぐり(たかなしふぐり):探偵見習い

萩月山茶花(はぎつきさざんか):語り手

百瀬珠(ももせたま):百瀬探偵結社の総長

枢木くるる(くるるぎくるる):百瀬探偵結社の事務員

舞鶴めると(まいつるめると):天狗少女。法術使い。

更科美弥子(さらしなみやこ):萩月山茶花の隣人。不良なお姉さん。

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