気韻生動の法術士【第六話】
文字数 1,014文字
☆
わたし、舞鶴めるとは、女子大生だ。茨城県の常陸市にある常陸十王大学に通っている。
茨城に生まれ、茨城で暮らしてきた。
それはほぼ、人生のすべてを茨城で過ごしてきた、ということだ。
病棟の一件から、一年が経過していた。
わたしはまだ、茨城にいる。
わたしには、不思議な能力があって。
それは、極力使わないようにしている。
それでも、天狗少女とあだ名をされているけれどもね。
ある、晴れた日の朝。
大学への登校中。
「猫魔さん、元気かな……」
わたしが呟くと、一陣の風が吹いた。
スカートを押さえ、目を瞑る。
一秒後、ゆっくり目を開けると。
わたしの目の前に、小柄で勝ち気そうな女性が腰に手をやり、胸を張ってこっちを見ていた。
そして、その女性に付き添っている男の姿は、忘れるわけがない。
破魔矢式猫魔だ。
ああ、じゃあ、この女性が猫魔さんの〈飼い主〉の、〈魔女〉か……。
「舞鶴めるとじゃの! 我が輩がおぬしに用があることは、もうわかるじゃろ」
魔女がわたしに開口一番で、そんなことを言う。
隣で猫魔さんが苦笑している。
「我が輩の『百瀬探偵結社』に、おぬしを受け入れる用意が出来たのじゃ! おぬしは百瀬探偵結社の、〈東京支部〉で働いてもらう。今まで茨城以外に住んだことがない、と聞いておるが。引き受けてくれるじゃろう?」
下を向いて、少しにやけてから、わたしは顔を上げた。
「もちろん。働きますよ」
後先考えず、わたしは首肯していた。
返事をしたわたしは、瞳がキラキラしていたかもしれない。
「ふむ。悪いようにはせんから、ビシバシ我が輩のもとで働くのじゃ!」
わたしは、声を弾ませる。
「ついに、天狗少女と陰口をたたかれて居場所のなかった大学を辞めて、自分の能力を活かすときが来たのね」
ニヤリと歯をむき出すようにして、魔女は言う。
「そういうことじゃよ、めると。我が輩が百瀬探偵結社の総長・百瀬珠じゃ。よろしくのぉ」
わたしは、猫魔さんの方を向く。
「今度、『南画』の描き方、教えてくださいね、破魔矢式猫魔さん」
「お安いご用だよ、舞鶴めるとさん」
猫魔さんの返事を聞いてから、わたしは総長へ視線を移す。
「こちらこそ、よろしくお願いしますね、珠総長」
「ふむ。これからの己が仕事に、存分に励むが良い」
「じゃあ、さっそく連れて行ってくださいな」
わたしの人生の第二章が、ここから始まった。
天狗少女の人生が。
これはつまり、そういう物語。
〈了〉
わたし、舞鶴めるとは、女子大生だ。茨城県の常陸市にある常陸十王大学に通っている。
茨城に生まれ、茨城で暮らしてきた。
それはほぼ、人生のすべてを茨城で過ごしてきた、ということだ。
病棟の一件から、一年が経過していた。
わたしはまだ、茨城にいる。
わたしには、不思議な能力があって。
それは、極力使わないようにしている。
それでも、天狗少女とあだ名をされているけれどもね。
ある、晴れた日の朝。
大学への登校中。
「猫魔さん、元気かな……」
わたしが呟くと、一陣の風が吹いた。
スカートを押さえ、目を瞑る。
一秒後、ゆっくり目を開けると。
わたしの目の前に、小柄で勝ち気そうな女性が腰に手をやり、胸を張ってこっちを見ていた。
そして、その女性に付き添っている男の姿は、忘れるわけがない。
破魔矢式猫魔だ。
ああ、じゃあ、この女性が猫魔さんの〈飼い主〉の、〈魔女〉か……。
「舞鶴めるとじゃの! 我が輩がおぬしに用があることは、もうわかるじゃろ」
魔女がわたしに開口一番で、そんなことを言う。
隣で猫魔さんが苦笑している。
「我が輩の『百瀬探偵結社』に、おぬしを受け入れる用意が出来たのじゃ! おぬしは百瀬探偵結社の、〈東京支部〉で働いてもらう。今まで茨城以外に住んだことがない、と聞いておるが。引き受けてくれるじゃろう?」
下を向いて、少しにやけてから、わたしは顔を上げた。
「もちろん。働きますよ」
後先考えず、わたしは首肯していた。
返事をしたわたしは、瞳がキラキラしていたかもしれない。
「ふむ。悪いようにはせんから、ビシバシ我が輩のもとで働くのじゃ!」
わたしは、声を弾ませる。
「ついに、天狗少女と陰口をたたかれて居場所のなかった大学を辞めて、自分の能力を活かすときが来たのね」
ニヤリと歯をむき出すようにして、魔女は言う。
「そういうことじゃよ、めると。我が輩が百瀬探偵結社の総長・百瀬珠じゃ。よろしくのぉ」
わたしは、猫魔さんの方を向く。
「今度、『南画』の描き方、教えてくださいね、破魔矢式猫魔さん」
「お安いご用だよ、舞鶴めるとさん」
猫魔さんの返事を聞いてから、わたしは総長へ視線を移す。
「こちらこそ、よろしくお願いしますね、珠総長」
「ふむ。これからの己が仕事に、存分に励むが良い」
「じゃあ、さっそく連れて行ってくださいな」
わたしの人生の第二章が、ここから始まった。
天狗少女の人生が。
これはつまり、そういう物語。
〈了〉