南方に配されし荼枳尼の法【第一話】
文字数 1,380文字
屈強な男性の身体に、馬の頭が乗っている。
これが〈鬼影 〉と呼ばれる、小栗判官 が使役した式神だった。
「ぶもー! 怒ったぶもー! 死ぬぶもー!」
インテリジェンスに若干欠けた声を発しながら、鼻息を鳴らす鬼影。
鬼影は黒いブーメランパンツを一枚はいているだけの格好をしていた。
筋肉をそんなに見せつけたいのだろうか。
僕は装備している特殊警棒を握りしめた。汗混じりの手で。
特殊警棒とは、収納された状態から振り出しその長さを二、三倍に伸長させて戦う護身用品だ。
僕のは鋼鉄製。
一振りすると、収納されてある筒が三段になって伸び、長さが携帯時の三倍になった。
「かかってこいよ」
安い挑発をしてみる。
だいたい、普通に考えたらこんな武器で勝てる相手じゃない。
挑発して相手の心を乱せ。勝機はそこにある。
僕、萩月山茶花は、小栗判官という怪人を追い、そしてその小栗判官が使役した馬の頭に人間の身体という、逆ケンタウロスのような奴を相手にしている。
場所は夜の緑地帯だ。常陸市の、小木津町上合団地 の真ん中にある、緑地帯である。そして、日付が変わった、真夜中というシチュエーションだ。
「許さないぶもー!」
なにを許さないのか、理解に苦しんだが、この鬼影にも戦う理由というのがあるのだ。
使役されているから戦う、という単純さではないのだろう。
「僕もおまえを許さない」
黒いパーカーのフードを目深にかぶっている僕は、特殊警棒を横向きに構える。
あちら側も、動かない。鼻息を荒くして、こちらが動くのを待っている。
「殺す、殺す、ぶもーっころす!」
相手はヒートアップしている。体力をこれで削れるような気がする。
飛び出すのは、まだ先だ。
相手が興奮して疲れるのを、待つ。
「怪人が使役した式神か……。胸が躍るよ、ったく」
「なんか言ったかああああああああぁぁぁぶもぉおおぉぉぉおおおおおおおお!」
なにが他人の琴線に触れるのかなんてわからないものだ。
鬼影は僕の言葉にキレて、突進してきた。
背をかがめて、頭を前方に突き出して、鬼影は頭突きをすべく走ってくる。
「しめたぜ!」
僕は鬼影の顔の眉間へ、思い切り特殊警棒を叩き込んだ。
屠殺と同じ方法だ。
「ぶ、ぶもっ!」
そこへ尽かさず第二打! 今度は振り落とすように、縦に。
もちろん、眉間を狙って。
「ぶもおおおおおぉぉぉぉおおお」
相手が血を流しフラついたところで、こいつの股間をブーツで蹴り上げる。
「オオオオオオオオオォォォォンンンン!」
さらにもう一度、眉間に思い切り特殊警棒を叩き込む。
「ぶもーんッ!」
鬼影の身体が発光し、そして爆ぜた。
吹き飛ぶ両手、両足。四肢はあらぬ方向へと飛んでいった。
同時に赤いシャワーが降り注ぐ。
飛び散る内臓と体液。
僕も大量の返り血と肉片を浴びる。
鬼影が爆ぜたのち、その場に、紙で出来た依り代が落ちた。
僕はそれを拾って、警棒を持っていない左手で握りつぶす。
「小栗は……逃したか」
今日は人手が足りなくなって一人で行動していたから、追い詰めることが出来なかった。
小栗判官を、逃してしまった。
常陸国小栗城・城主だったという、その怪人を。
服も汚れてしまったし、僕は百瀬探偵結社の事務所ビルへまっすぐに戻ることにした。
「僕は雑用係なんだけどなぁ……。珠総長の命令とあらば、逆らえません、……だね」
これが〈
「ぶもー! 怒ったぶもー! 死ぬぶもー!」
インテリジェンスに若干欠けた声を発しながら、鼻息を鳴らす鬼影。
鬼影は黒いブーメランパンツを一枚はいているだけの格好をしていた。
筋肉をそんなに見せつけたいのだろうか。
僕は装備している特殊警棒を握りしめた。汗混じりの手で。
特殊警棒とは、収納された状態から振り出しその長さを二、三倍に伸長させて戦う護身用品だ。
僕のは鋼鉄製。
一振りすると、収納されてある筒が三段になって伸び、長さが携帯時の三倍になった。
「かかってこいよ」
安い挑発をしてみる。
だいたい、普通に考えたらこんな武器で勝てる相手じゃない。
挑発して相手の心を乱せ。勝機はそこにある。
僕、萩月山茶花は、小栗判官という怪人を追い、そしてその小栗判官が使役した馬の頭に人間の身体という、逆ケンタウロスのような奴を相手にしている。
場所は夜の緑地帯だ。常陸市の、
「許さないぶもー!」
なにを許さないのか、理解に苦しんだが、この鬼影にも戦う理由というのがあるのだ。
使役されているから戦う、という単純さではないのだろう。
「僕もおまえを許さない」
黒いパーカーのフードを目深にかぶっている僕は、特殊警棒を横向きに構える。
あちら側も、動かない。鼻息を荒くして、こちらが動くのを待っている。
「殺す、殺す、ぶもーっころす!」
相手はヒートアップしている。体力をこれで削れるような気がする。
飛び出すのは、まだ先だ。
相手が興奮して疲れるのを、待つ。
「怪人が使役した式神か……。胸が躍るよ、ったく」
「なんか言ったかああああああああぁぁぁぶもぉおおぉぉぉおおおおおおおお!」
なにが他人の琴線に触れるのかなんてわからないものだ。
鬼影は僕の言葉にキレて、突進してきた。
背をかがめて、頭を前方に突き出して、鬼影は頭突きをすべく走ってくる。
「しめたぜ!」
僕は鬼影の顔の眉間へ、思い切り特殊警棒を叩き込んだ。
屠殺と同じ方法だ。
「ぶ、ぶもっ!」
そこへ尽かさず第二打! 今度は振り落とすように、縦に。
もちろん、眉間を狙って。
「ぶもおおおおおぉぉぉぉおおお」
相手が血を流しフラついたところで、こいつの股間をブーツで蹴り上げる。
「オオオオオオオオオォォォォンンンン!」
さらにもう一度、眉間に思い切り特殊警棒を叩き込む。
「ぶもーんッ!」
鬼影の身体が発光し、そして爆ぜた。
吹き飛ぶ両手、両足。四肢はあらぬ方向へと飛んでいった。
同時に赤いシャワーが降り注ぐ。
飛び散る内臓と体液。
僕も大量の返り血と肉片を浴びる。
鬼影が爆ぜたのち、その場に、紙で出来た依り代が落ちた。
僕はそれを拾って、警棒を持っていない左手で握りつぶす。
「小栗は……逃したか」
今日は人手が足りなくなって一人で行動していたから、追い詰めることが出来なかった。
小栗判官を、逃してしまった。
常陸国小栗城・城主だったという、その怪人を。
服も汚れてしまったし、僕は百瀬探偵結社の事務所ビルへまっすぐに戻ることにした。
「僕は雑用係なんだけどなぁ……。珠総長の命令とあらば、逆らえません、……だね」