泰山に北辰尊星の桜吹雪を【第一話】
文字数 1,182文字
陰陽は
胸を
一覽すべし
杜甫『望嶽』
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僕、
「よぉ、少年。煙草なんて吸っちゃってさ、わりぃ奴だな。うっしっし」
と、声がかかった。隣と隔てる壁を越えて、身を乗り出すように隣室ベランダを見てみる。
そこにはいつも通りキャミソールにショートパンツという格好で、ビール缶片手にラッキーストライクを吸っているお姉さん、
「下着同然の姿で煙草にアルコールですか。美弥子さんの方が不良なのでは」
「山茶花少年。そんなこと言って、わたしのキャミ姿に欲情してるのは知ってるんだぜ」
「うっ」
「うっしっし。言葉に詰まるな、そんなことくらいで。むしろ至近距離でお姉さんのキャミソールに生足の姿を拝めることを誇りに思えよ」
「そんなこと言っても……」
「頑張れよ、少年。お姉さんは萩月山茶花少年に期待しているのだよ?」
「またまた、そんな。おだててもなにもでてきませんよ」
「おだててるわけじゃないさ。おまえのとこのボス、
そう、僕は〈魔女〉こと百瀬珠総長のもとで、探偵業の雑用係として働いている。
常陸市にある、〈百瀬探偵結社〉の一員として。
そしてこのビルのこの部屋は、社宅代わりの僕の部屋だ。
ビールをぐびっと飲み、煙草を吸ってから、更科美弥子さんは僕に釘を刺す。
「……少年。気を抜くと取って喰われるぜ?」
僕は更科美弥子さんの目を見て、
「肝に銘じておきますよ、美弥子さん」
と言い、煙草の紫煙を吐く。
「取って喰われるなんて、そんな運命に従順でなんて、僕はいられないですから」
「うっしっし。言うじゃん、少年。今度お姉さんが抱いてあげよう」
僕はもう一口セブンスターを吸って、煙を空中に吐き出してから、
「嘘ばっかり」
と、薄く笑った。
すると、ぴーんぽーん、と玄関のチャイムが鳴る。
「美弥子さん。お客さんが来たみたいなんで、失礼します」
「探偵くんかな? うん。おやすみ」
「そんな格好で風邪引かないでくださいね」
「そっちこそ……死ぬなよ。くだらないことでは、ね」
僕はセブンスターを携帯灰皿でもみ消して、ベランダから室内に戻る。
玄関外のモニタで廊下に立っているのが