第24話 甲子園編●「ドジョウは二匹いるのか?」
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果たして、この「東京五輪」は空前の大ヒットとなったのである。戦後の映画興行記録を塗り替え、海外の映画賞も総なめにした。市村は二匹目のドジョウを狙って、この第50回甲子園大会のドキュメント映画の制作に乗り出していたのだ。ハンチングにサングラスという出で立ちの市村は甲子園の観衆の中で独特の存在感を放った。中には熱心が映画好きが市村にサインを求める姿も見受けられた。
「この組み合わせが一回戦とは勿体無い。由良明訓高校というのは絵になる選手がいっぱいいる。それにしても青雲大付属の江口君は素晴らしい!彼こそ青春というテーマにぴったりだ」
「監督。明訓の里中君はどうですか?噂じゃ松映ロビンスが今から目をつけているらしいです」
「松映が?二、三年プロ野球をやらせて知名度を上げてから俳優に転向させるって腹だろう。松映はアクション路線だからな。今までのアクション映画にはいなかった線の細いスターにはなる。金儲けしか考えてない松映の岡村社長の考えそうなことだ。わしだったら、みっちり演技を仕込んでから悲恋物語の主役にしたいところだがな」
「しかしプロ野球経営で残っている映画会社は松映だけですからなぁ。天映オリオールズも映宝スターズも数年でプロ球団は手離しましたから寂しい限りですなぁ」
「もはや戦後ではないとは上手いことを言ったものだ。わしは、この甲子園~青春の作中では江口君をカメラマンに追わせておるよ。里中君は確かに美男子だが、いささか野暮ったい江口君が美男子の里中君に投げ勝つという展開になってくれると良い」
「なるほど!監督の意見は最もですが、里中君が田山君や岩城君という豪傑を従えて勝ち進む展開も僕なんか想像しちゃうんです。劉備が関羽や張飛、趙雲と言った豪傑と出会って天下を狙っていくという三国志的な登場人物が現実になっていて、このチームは魅力的なんです」
「ほう!君は面白いことを考えるなぁ。三国志か!それもいい。馬場という選手も高校生にしては妙に落ち着いて飄々としており、孔明っぽいムードがある」
こんな市村監督と助監督の談話がある中で里中も好投し、矢吹、岡部を、それぞれ凡打に討ち取った。二死ながら五番ピッチャー江口の打席である。回は五回だが、ちょこちょことランナーが出塁している青雲には三循目の打席が回ってきていた。市村監督の目が光った。
「この打席の江口君は気迫が違うな。打者になると投手の時ほど気迫は感じられなかったが、今は違いますね。マウンドにいる時より集中力が増しているように見える。なかなかどうして!わしが見込んだ通り、江口君も絵になる若者だよ」
「青雲大付属は、これまで甲子園は無縁の進学校ですからね。予選でも江口君一人で打って投げて勝ち進んでいたようです」
「う~ん。ますますいいねぇ。弱小野球部を一人で引っ張って甲子園へ!素晴らしい青春じゃないか!ともかく江口君に頑張ってもらって東京五輪以上のスポーツ・ドキュメントにしいぇたるぞ!わしも燃えているんだ!」