第24話 コメンテイター達の出版戦争

文字数 936文字

 芸人、自称IT起業家、社会学者、もと官僚、などなど、今日もお昼のワイドショーには、コメンテイターが百花繚乱だ。
 失言で炎上したら舞台から叩き落とさねばならないため、ギャラが安くて替えのきく人間を、常時複数人用意しておく。テレビ界では、それはもはや常識となっていた。

 採用する際の決め手は、出版された著作数と、過去に出演した番組の数。レギュラー番組なんか持っていたら最高だ。
 そもそも学者であれば論文の引用数が引き合いに出されるべきだが、視聴者はそんなものは気にしない。よりわかりやすい数字を欲しがる。

 しかし、とある論客が「出版した著作数に、

自費出版したものが含まれている」と週刊誌に暴露されて、炎上した。

 芋づる式に、右派、左派による互いの陣営に属する論客への攻撃が始まり、ワイドショーに出演するコメンテイターが一通り入れ替わった辺りで、各局が宣言をした。

「『出版された著作数』として数えるのは、ISBNコードつきのものに限る」

 ここから、ちょっとした出版バブルが起きた。
 何しろ、ISBNコードは出版社が日本図書コード管理センターに金を払えば、書籍に付けることはできるのだ。右派、左派ともにとりあえずISBNコードの付いた本を大量に出版した。

 しかし、週刊誌が「出版社に本を作らせるだけ作らせて、ほとんど流通していいない疑惑」を報じたため、再び炎上した。

 そこで、右派、左派ともに自陣営の本を自分たちで買い込み、配り歩き、しかも「発売から一か月で●刷!」「総発行部数●●万部!!」と、その部数まで競うようになった。

 その頃、暴露した老舗の週刊誌の編集長とISBNコードを付与する「日本図書コード管理センター」の職員は、高級料亭で談笑していた。

「ひさびさの出版バブルですよ。右派、左派ともに自陣営で大量に出版した上に買い上げまでやってくれるから」
「ISBN出版者記号の新規と追加の申請も増えて、書籍JANコードの申請も増えて、うちの売り上げも上がっています。まあ、これからもよろしく」

 彼らがつけっぱなしにしているテレビの中では、相も変わらず、芸人、自称IT起業家、社会学者、もと官僚、などなどのコメンテイター達が口角泡を飛ばしていた。

(終わり)
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