第50話 愚行助長産業指定法

文字数 1,046文字

【愚行権】
 『自由論』(著:ジョン・スチュアート・ミル)のなかで功利主義と個人の自由に関する論考として提示された概念。たとえ他人から愚かな過ちと評価・判断される行為であっても、自らの責任と個人の領域に関する限り、何人からも邪魔されない「自由権」のこと。



 煙草、酒、賭博、風俗、占い、虚栄心を満たすためだけのブランド品、糖分たっぷりのお菓子やジュース、異常なほどの激辛料理、欧米へのコンプレックス丸出しのカラコン、現実から目を逸らす効果しかない<労せず成り上がる系異世界ファンタジー>、歪んだ優越感を育むだけの自己啓発系オンラインサロン――一時的な快楽を得られても、使い続けることでメリットより害悪の方が多くなる産業を「愚行助長産業」と位置付け、国民が耽溺することがないように国が管理するようになった。

 指定産業で営利を得る企業は、通常の法人税のほかに特殊法人税がかけられるようになった。
「これを財源として、ケアが必要な人のための福祉を拡充します」
「国民のみなさまの健康で幸せな生活を守るためです」
 メンタルを病む人を減らして医療費を抑制し、間違ったお金の使い方により破産する人を減らし、犯罪を抑止したいという本音は、耳ざわりの良い言葉に置き換えられた。これらの政府の言い分に、国民は納得した。

 しかしある週刊誌が、一部の愚行助長産業に該当する企業が、与党政治家に献金することで指定を逃れようとしていたことをスクープした。深夜の料亭で交わされた会話の内容として、写真付きで掲載された内容に、一部の国民は激怒した。
 瞬く間に、「結局、政治家がみかじめ料をせしめるためなんじゃないか」と追及する声がネットを中心に広がり炎上。
 特に、愚行助長産業に指定された企業の製品を愛用していたため、その製品の値上がりに憤っていた人々――愛煙家、ラノベ読者、カラコンユーザーetc……は、声高に政府を批判、非難、糾弾、攻撃、こき下ろした。

 しかしながら、ほとんどの国民は「愚行好きな人ほど、お気持ちを叫ぶ声が無駄にデカいよね。お察し」と、大騒ぎする人々と政治家を冷ややかな目で見ていた。

 結果、分断と差別が進み、その結果、犯罪は増加、メンタルを病む人が増えて医療費も増加した。
 当初、政府が目指していたのとは逆の結果になったが、それでも政治家は何も責任を取らず、国民もさして関心を払わなかった。

 ダメな政党や議員に投票を続けて、無能な政府を持続させることが一番の愚行だという点には、誰も気づかなかった。

(終わり)
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