第48話 アンダー
文字数 1,240文字
「はい、街中で指をさされたのが3回と、暴言が7回ね。『死ね』と『ゴミクズ』と、『キモい』、と。あとは、商業施設での横入りが計11回。あ、三日前に蹴られた? どれぐらい強く? 痣とかになってます? 見ていいですか?」
僕はズボンのすそを捲り上げて痣になった箇所を見せた。
「ああ、かなり強くやられましたね。これなら40ポイントですね。そうですね、合計で100ポイントになりますので、今月は満額支給になります」
「はぁ」
「良かったですね」
――良かった、のだろうか。
今、この国では社会の最下層でいることが「仕事」として、認められている。外出時には、国民社会階級 の最下層である「アンダー」であることを示す腕章を身に着け、屈辱を一身に受ける。
そうして、街中で悪口やイヤミを言われた回数、小突かれた回数、その他嫌がらせを受けたことなどをメモしておいて、それを持って役所に行くと、街中の監視カメラなどと照合し、その受けた差別を収入に変えられるのだ。
もちろん、行き過ぎた暴力等は禁止されているが、ちょっと小突く程度なら、いい収入になると喜ぶ人もいるそうだ。
社会の安定剤としての、
当然、無職の人間は、強制的にアンダーとなり、本人の意思にかかわらずこの<労働>を義務付けられる。
だから生活保護などというものはない。
役所は楽になったという。
悪質な受給者と本当に必要な人の区別をつける審査の手間が省け、税金からの支出を無駄遣いだと右傾メディアに叩かれることもなく、職員がハラスメントや嫌がらせを受けることもない。
役所で暴れる馬鹿が減って万々歳だと役所の人間は笑顔で言う。役所の職員だけではない。この制度ができてから、人びとが心穏やかになり、犯罪が減ったというデータが警察から発表された。
差別に慣れてしまった人は、アンダーの生活を満喫しているだけでなく、やりがいすら感じているという。
しかし、僕は早く抜け出したい。
手続きを終え、アンダー管理課に併合された<職業探しコーナー>で必死に探す。
こんな僕でもできる仕事を。
「また探しているのか?」
ふいに声をかけられた。支給日が同じなので、時々顔を合わせる奴だ。名前は知らない。
「諦めろよ。一旦、アンダーになったら、なかなか職は見つからないぜ」
僕は無視して探し続ける。
「昔は、ホームレスって言われる奴らが収入もないのに、この仕事についていた。今はちゃんと仕事として給料が支払われているんだから、よくなった方だ。この仕事も悪くないぜ」
そんなものだろうか。
そいつは、言うだけ言って、去って行った。
そうだろう、自分と同じ立場の人間が減るのは、誰だって嫌なものだ。自分の選択を否定されるような気がするからな。だけど、僕のやることを正面切って論破できないから、ああいう言い方をするんだ。
僕は、頭から求人リストを見返し始めた。
僕は、自分の階層を自分で決める。それは、あいつと同じ階層ではない。そう心に決めて。
(終わり)
僕はズボンのすそを捲り上げて痣になった箇所を見せた。
「ああ、かなり強くやられましたね。これなら40ポイントですね。そうですね、合計で100ポイントになりますので、今月は満額支給になります」
「はぁ」
「良かったですね」
――良かった、のだろうか。
今、この国では社会の最下層でいることが「仕事」として、認められている。外出時には、国民
そうして、街中で悪口やイヤミを言われた回数、小突かれた回数、その他嫌がらせを受けたことなどをメモしておいて、それを持って役所に行くと、街中の監視カメラなどと照合し、その受けた差別を収入に変えられるのだ。
もちろん、行き過ぎた暴力等は禁止されているが、ちょっと小突く程度なら、いい収入になると喜ぶ人もいるそうだ。
社会の安定剤としての、
職業としての被差別民
。当然、無職の人間は、強制的にアンダーとなり、本人の意思にかかわらずこの<労働>を義務付けられる。
だから生活保護などというものはない。
役所は楽になったという。
悪質な受給者と本当に必要な人の区別をつける審査の手間が省け、税金からの支出を無駄遣いだと右傾メディアに叩かれることもなく、職員がハラスメントや嫌がらせを受けることもない。
役所で暴れる馬鹿が減って万々歳だと役所の人間は笑顔で言う。役所の職員だけではない。この制度ができてから、人びとが心穏やかになり、犯罪が減ったというデータが警察から発表された。
差別に慣れてしまった人は、アンダーの生活を満喫しているだけでなく、やりがいすら感じているという。
しかし、僕は早く抜け出したい。
手続きを終え、アンダー管理課に併合された<職業探しコーナー>で必死に探す。
こんな僕でもできる仕事を。
「また探しているのか?」
ふいに声をかけられた。支給日が同じなので、時々顔を合わせる奴だ。名前は知らない。
「諦めろよ。一旦、アンダーになったら、なかなか職は見つからないぜ」
僕は無視して探し続ける。
「昔は、ホームレスって言われる奴らが収入もないのに、この仕事についていた。今はちゃんと仕事として給料が支払われているんだから、よくなった方だ。この仕事も悪くないぜ」
そんなものだろうか。
そいつは、言うだけ言って、去って行った。
そうだろう、自分と同じ立場の人間が減るのは、誰だって嫌なものだ。自分の選択を否定されるような気がするからな。だけど、僕のやることを正面切って論破できないから、ああいう言い方をするんだ。
僕は、頭から求人リストを見返し始めた。
僕は、自分の階層を自分で決める。それは、あいつと同じ階層ではない。そう心に決めて。
(終わり)