第1話 新しい言語様式

文字数 699文字

 2XXX、人類はついに異星人との遭逢(そうほう)を果たした。
 彼らは高い文明を持っていたが、しかしどこか疲れたような覇気のない表情で、澱んだオーラを発していて、彼らが住む星と、宇宙船の内部も、寂れた様子であった。

「これだけの高い文明を持っているにしては、活気がない」

 そう考えた人類側の使節団代表が遠まわしに理由を聞くと、彼らはこう答えたのだ。

 文明が進めば進むほど、その進歩についていけない者が出てくる。機能的非識字、常識の欠落、家庭での不適切な躾と教育から生まれる社会的不適応。

 彼らは、それらの原因を「情報不足」と仮定して、新しい言語様式を開発することで、解決しようとした。
 彼らが開発した、画期的な新言語――それは常識、行動規範、色々の全ての要素を含む新言語だった。

 しばらくの間は、うまくいっていた。

 しかし、ある日突然眠りに落ちる者たちが出てきた。彼らを治療した医師と科学者が研究を進めた結果分かったのは、彼らは脳の処理能力が限界を迎えたために「眠り病」に陥ったということ。

 結局、新言語は抜本的な解決にはならなかったのだ。
 しかし、取り残されて眠りに入る人たちを残し、文明は進み続けた。原因がわかっても対策は講じられず、むしろ言語の進化の速度は増している。彼ら自身にも止められないのだと言う。誰が作ったのか、誰がバージョンアップし続けているのが、彼ら自身にもわからないまま――。

 異星人の話を聞いた後、人類側の使節団のある者は、後でこっそり彼らを馬鹿にし、愚かな話だと笑いものにした。しかしその話を聞いた相手は、言語様式を社会システムと置き換えると、そのまま我々ではないか、と言った。

(終わり)
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