第5話 論理フィルター~とあるシンギュラリティの一面

文字数 811文字

「上記内容の要約(サマリー)として正しいものはどれか。三択で答えよ。」

 画面に表示された文言を見て、男はチッ、と舌打ちした。

「何が論理フィルターだよ……」

 大手IT企業は、炎上やいじめなどのインターネットの社会問題への対策として、「論理フィルター」を採用した。
「論理フィルター」は、もとのコメントの内容を正しく認識できる人以外は、そのコメントに対してのリプライを付けられないようにする機能だ。テキストマイニングによりAIが作り出した、コメントの正しい要約と、複数の類似した文の中から、正しいものを選び出すことができなければリプライを投稿することはできない。
 元のコメント内容を正しく理解せず自分の意見と違うというだけで感情的な言葉をぶつける人、文言の一部だけを切り取ってヒステリーを起こす人、ただ相手が有名人だから誹謗中傷したいだけの人――そういった人たちから、もとのコメントを投稿した人を守り、ネットを安全な場所に保つための解決策だった。

 しかし、この施策によって排除された人々が「不平等」だと騒いたために、画面下部に、ごくごく小さい文字で一応のリプライが付けられるようになった。

 しかしこれも、偶然に三択問題をスルーできてしまう人への対策として、選択肢の数を増やしていったことで、画面の下へ下へと追いやられ、「ほぼ存在しないのと同じ」になっていった。

 さらに、選択肢の数が増えたことで、そもそも排除される人の数がさらに増えていった。

 それとともに、SNS上では、コメントを付け、スレッドに参加できる人々を(ひが)み半分で揶揄(やゆ)するようなコメントが目立つようになっていった。

――「自分達だけ特別」って顔しちゃって。
――スカしている。
――頭がいいのをひけらかすんじゃねぇよ。
――イヤミ。

 しかし、これらのよく似たコメントを投稿する人々同士ですら、AIが作り出す論理フィルターは、彼らがリプ欄でつながることを残酷にも拒否するのだった。

(終わり)
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