第47話 神様、おねがい

文字数 1,322文字

 22XX年、人類は二つの種族に分かれていた。一方は、AIを召使(サーバント)と呼び使役する種族。そしてもう片方は、AIを<神>と呼ぶ種族。

 21世紀初頭から始まった経済の二極化はとどまることを知らず、それは知的レベルの二極化へ進み、さらには、文化教養、生活スタイル、使う言葉もどんどんかけ離れ、終いには二つのグループの間では話すら通じなくなっていった。

 しかし、人類として同じような姿形を持ち、ひとつの生活圏で生活をしていると、その不平等が目に付いて仕方ない。
 裕福な方の人々はなんとなく後ろめたく、そうでない方の人々は、自分たちがみすぼらしく、不自由な暮らしなのに、豊かに暮らしている人がそばにいるのが腹立たしい。

「同じ人類なのに不平等じゃないか」
「分かち合うべきじゃないのか」

 あれこれと要求され続けて、最初のうちは「ちょっとくらいは」、「同じ社会の一員なのだから」と思っていた裕福な人々も、その際限のなさにいい加減にウンザリしてくる。

「相手と対等だと誤認して、際限なくご要求してくる。助けあえとか、人間はみな平等だ、とか。冗談じゃない。平等に生まれてきて、助けてやってる時点で平等なんかじゃない。こっちは搾取されているのに」

 そこで、裕福な人々は、巨大な壁を築いて自分たちの姿が見えないようにした。そうして、貧しい人たちには「何か必要な時には神へ祈るといい」と教えこんだ。

 助けが必要な人は神の像や神殿に向けて、あれが困っている、これが足りない、なんとかが必要だ、と要求し、それらはAIによって統合され、分析され、具体策に落とし込まれて必要があれば裕福な人たちが介入したり、助けたりするシステムにしたのだ。

 今まで、他人の問題解決をしてやり、金銭的な負担を負うことを「搾取されている」と感じて不満を漏らしていた人たちも、このシステムを導入して、

負担するものとしてなら「まぁ、しょうがないか」と許容し、協力をすることができた。

 が、しかし。

 神宛ての祈りにしても、要求は際限がなかった。

 そもそも、要求すれば何か貰えると学習してしまった人は、要求することに遠慮も躊躇もないのだ。

 そこで、今度は「お礼参り」という習慣を教えた。

 供物とか生贄という負荷をかけることで、ご要求を抑制をしようとしたのだ。

 しかし、「犠牲さえ払えば対価として要求を呑んでもらえる」と学習してしまうと、要求したものを必ず貰えるものと思い込み、さらに強く要求するようになった。

 ある裕福な人が、AIに聞いてみた。

「いったいどうすれば、彼らは『アレをしてくれ』『コレをくれ』と言わなくなるのだろう」

 問われたAIは、こう答えた。

「たんに与えるのではなく、自分の力で獲得する方法を教えるようにすればいいのです」

 その通りにすると、あれこれと要望してくることがなくなった。

「どうしてだろう?」

 最初に質問した人が、不思議に思って、その理由をAIに聞いてみた。

「獲得するために努力した挙句に失敗して、自分自身に幻滅するのが嫌なのですよ」
「なるほど」

 そうして、裕福な人々も、「AIの方が賢いな」「全部AIにやらせればいいか」と、全てをAIに任せるようになってしまった。

(終わり)
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