第30話 AIクリエイター

文字数 875文字

 AIが驚異的な進化を遂げ、ChatGPTなどの対話型の人工知能ツールを使いこなして小説を書くこともできるようになったため、各種小説コンテストにはAIを使って作成された小説が応募されるようになった。どのコンテストも、応募総数はうなぎのぼりとなった。

 当然、コンテストの主催者は心配した。

 ――応募総数が増えるのはいいが、いくらなんでも数が多すぎるんじゃないか。全体のレベルが底上げされるのならいいのだが、逆に、現場が混乱して名作が埋もれてしまうようなことになったら困るな。

 しかし、その心配は杞憂だった。下読みのスタッフが言うには、すぐに一定数の作品をはじいて、数を絞り込むことができたのだそうだ。

「内容が駄目なのかい?」
「いいえ、小説のグレードとしてはむしろ全体的に上がっていますよ。なにしろChatGPTなどのAIを使っているんですからね」
「じゃ、送られた来た原稿の、何が問題なんだい?」
「規約ですよ。規約違反が多くて、ふるいにかけるとすぐに落ちるものばかり。文字数、期日にプリントアウトの書式、梗概その他の添付書類の不備……小説を書く以前の問題です。そもそも

んじゃないかとすら思いますね」
「……」

 しかし、小説の内容自体の吟味ではない全くの無駄な作業は、下読みスタッフ――多くはまだ売れていない若い作家たちだ!――の勉強も兼ねてという意味合いからは程遠い単純労働であり、それはそれで主催者にとっては頭の痛い問題であった。

 そこで、翌年から、コンテストの主催者は、規約を読めているかどうかを確認するため、応答AIを用意して、下読みに通す前に応募者たちをふるいにかけることにした。

 結果は惨憺たるものだった。
 多くの応募者が、規約について、元の文章の意図とはかけ離れた解釈をしていることを指摘されても、それを悪びれもせず「文章をどのように解釈しようと自由だ」と主張し、己の正当性のみを主張するのだった。

「……これ、そもそも文章能力以前の倫理の問題じゃないですかね?」

 下読みスタッフの言葉に、主催者はため息をつくのだった。

(終わり)
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