第18話 とある共感情欠乏症患者の憂鬱

文字数 1,169文字

 規律を守り、他人と折り合いをつけて生活していくことが

は、大昔から一定数存在していた。

 が、スマホの普及とSNSの拡散効果は、「こんな奴らは和を以て貴しとなす日本人にありうべからざる大きな社会問題だ」と声高な排斥の声を生み出した。
 そうして、分断と憎悪の空気が膨らみに膨らんで、治安は悪化の一途を辿った。

 その対策として政府は、法律として刑事罰を喰らうほどではないが、社会的に問題のある行動――あおり運転や、ハラスメント、いじめなどをしがちな、いわゆるDQN体質の人間を一括りに「共感情欠乏症」と命名、他人と協調する能力が欠落した病気であると定義し、

に向かわせる法案を決議した。

 曰く、「DQN体質は病気だ。共感情欠乏症の

なんだよ。だからきちんと治療をして直して、模範的社会人に生まれ変わりましょう」。

 ということで、問題行動を行う人は、発見次第、録画をしつつ政府の専用回線へ通報することが義務付けられた。通報があると、メンインブラック的な専用の人員がかけつけ、当該人物の身柄を確保し専用の施設へ収容、治療を受けさせるという流れも確立された。

 施設で行われる具体的な

の内容は、大きく二段階に分かれる。
 脳外科手術で、ナノマシンを注入することで感情の高ぶりを制御すると同時に、人の感情を推測する部位と、争いや敵対的行動を避ける部位を活性化させるインプラント、通称共感情強制装置(シンパサイザー)の埋め込む。
 術後には、専門医によるカウンセリングが行われる。
 一連の治療の後、行動に問題がなくなったと医師がお墨付きを与えれば、無事に一般社会へゴーバック。

 さらに政府は、啓発キャンペーンとして、共感情欠乏症患者への対応はこのように、という模範的対応をCMで流す。

「共感情欠乏症なのね、可哀そうに」
「あなたも大変ね」
――これらの声がけで、患者さんも、一般社会に溶け込みやすくなります!

 しかし、これらの

と憐れみの言葉は、当の

たちからはおおいに不平不満の声があがった。
 曰く、これは差別だ、人権侵害だ、お気持ちが傷ついた、と。

 これらの抗議の声を受けて、一般市民の声は、一斉に攻撃の言葉へと転じる。

「共感情欠乏症のくせに」
「同情してやっているのに」
「共感情欠乏症だからダメなのよ」

 さらに、施策への抗議のために施術を拒否する者に至っては、社会保障の枠組みから外される、万一のときに生活保護を受けられない、特殊税を徴収……さまざまな嫌がらせともいえる措置が講じられた。

 こうなれば逃げ道はない。通報され、施設に送られた患者たちは、あとはマジョリティに従い、手術とカウンセリングを受けるしかない。

 今日も、一人の患者が施設の窓から外を眺めてぽつりと呟く。

「この差別をぶつけてくる人たちに、いったい共感情(シンパシー)はあるのだろうか?」

(終わり)
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