第15話 都市伝説

文字数 885文字

 とある休日の午後。特にやることもなく家でごろごろしていると、先日通販で買ったばかりのスマートスピーカーが目に留まった。
 素晴らしく性能がいいと言われていて、通販サイトの評価も★五つの高級品だ。私は、そいつに話しかけてみた。
「退屈だから何か面白い話をしてくれ」と。
 するとスマートスピーカーは、まるで人間のようななめらかな調子で話し始めた。

 ――こんな話を知っていますか?
 米国の有名大学の数学科博士課程の学生が、地下鉄の中で見知らぬ男から、紙きれを渡されるんです。「パズルは好きかい?」とか、何とか言われて。それは暗号のようで、一見すると何て書いているのか分からない。
 けれども学生はとても優秀だったので、それを解読することができた。解読の結果現れた文章はある種の数学の問題文だった。彼はとても優秀な学生だったので、時間は少々かかったものの、それも解くことができた。すると、どこからともなく最初の男が現れて「おめでとう、君は合格だ」。そしてその学生は、諜報機関にスカウトされた――。

「ああ、そんな話を聞いたことがあるな。っていうか、ネットで読んだんだったかな。よく出来た都市伝説よね」

「これ、都市伝説だと思いますか?」
「いや、そうでしょ? イマドキ、MI6だって新聞広告で求人しているんだよ?」
「へぇ、そうなんですね。その情報はどこから?」
「いや、それもネットニュースで」
「諜報機関に興味が?」
「いや、興味っていうか、スパイ小説とかが好きなだけで」
「好きな小説は?」
「んーやっぱり、ジョン・ル・カレとか? リアルだよね、彼の話は」
「なるほど。スノーデンの本は?」
「あれも面白かったよね」

 その後、男とスマートスピーカーは会話を続けて、最終的に男はスマートスピーカーに「おめでとう、君は選ばれた。諜報(スパイ)の世界へようこそ」って言われるんです。
 それを聞いた男は、最後には怖くなってスマートスピーカーを切った――



 ――っていう話がネットでバズっているんですよ、とスマートスピーカーは話を締めくくった。

 私は何だか気持ち悪くなって、スマートスピーカーの電源を落とした。

(終わり)
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