第44話 当事国の責任

文字数 1,563文字

 ジュネーヴ諸条約に、文民の保護に関する新たな条項が追加された。
 SNSの発達によって人道主義者(ヒューマニスト)たちがあげる正義の声が大きくなり、AIの発達により人間への被害を無くすハイテク兵器が開発されたことにより、戦争は事実上「ドローン同士が指定エリア内で戦闘すること」を意味するようになったのだ。
 どの国の戦争・紛争においても、一般市民も兵士も、死傷者はほぼゼロになった。

 しかし全ての戦争・紛争を急に無くすことができるほど人類は賢くはなく、民族としての遺恨、あるいは領土を巡って、はたまた宗教上の差別から、ドローン兵器を使って攻撃しあうことはなくならなかった。

 そのため、住居や生活物資、製造工場、その他インフラなど、文明生活を送るための環境は破壊され、戦死者が少なくなればなるほど、難民の数は膨れ上がっていった。

 それらの難民たちは周辺国へ押し寄せた。
 はじめのうちは、周辺国の国民たちも好意的だった。

「お気の毒ね」
「困っている時には助け合うべきだ」
「何かできることはある?」

 と親切だったのだ。
 しかし、高騰する税金、いつの間にかいる見知らぬ隣人、今までとは違う生活様式と配慮を求められるストレス……これらが、次第にその態度を変えていった。

「いつまで我慢すればいいんだ?」
「とても支えきれない」
「あの人たち、いつまでいるの?」
「なんでうちの近所に来たのかしら」

 徐々に難民を見る目は冷たくなっていった。
 
 そのうちに、「ねぇ、これって、

じゃないの?」という声が上がり始めた。
 一度、

を見つけると、一気に難民への風当たりは強くなった。

 そうして、「人が死なない戦争がだらだらと続くから難民が増えるんだ! 戦争を終結させるためにも、

なんだよ!」と、戦死者が出ることを許容する方向へと世論は傾き、以前のように死傷者がでるような武器が

使

ものとされた。

「兵士たちのなかから戦死者が出た」というニュースにも、
「だって、外交努力で平和を構築できなかったんだもの。

なんじゃないの?」
 という声があがり、反対の声をかき消してしまった。

 戦死者の数は増え続け、ついには民間人の死者も出てしまった。
 それでも、「でもそれって私たちの問題じゃなくて、当事者責任のある人たちがどうにかすべき問題でしょ?」と、周辺国の人々は問題から目を逸らし続けた。

 ストレスから生まれる不寛容と、不寛容から生まれる不満が、さらに社会を不安定にしていき、不寛容と不満と不安定の悪循環がグルグルと回り続けた。

 そうして、そこここで難民と元から住んでいた住民の、あるいは難民同士の小競り合いが起こった。常態化した小競り合いは、固まったグループ同士の、あるいは民族同士の小規模紛争へと発展していった。

 そうしてある日、ついに戦争用無人ドローンが、そこを戦場と誤認識し、ドローン同士の戦いが始まった。

 難民を支える側だった人たちは、その当事者となった。死傷者がでるような武器が

使

状態で。

 こうして戦場はどんどん広がっていった。

 数年後――難民の数は減った。だが、彼らを受け入れ、支えるはずの人たちはもっと数を減らしていた。それでも尚、戦地は拡大し、死者の数は増えていた。支援をしてきた国の人口も減ったため、難民たちを支えることがさらに困難になり、争いの種がさらに増えたからだ。

 止める者とてないまま、遺恨と奪い合いによる小競り合いと紛争は止まらなかった。むしろ、争いが争いを生み続けた。

 そして、誰も、いなくなった。

 ドローンはそこでやっと、止まった。

 ある意味、人類は自分たちの責任を取ったと言えよう。

(終わり)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み