第45話 野蛮な文明

文字数 1,106文字

 モニターには、一人だけ服を着ていない男性芸人が、複数の芸人からおもちゃのバットで袋叩きにされる映像が流れた。

 会議室にざわめきが広まった。

 次に、同じモニターに、女性芸人の首を絞める男性芸人の横から別な男性芸人が現れ、女性の胸をわしづかみにする映像が流れた。

 評議員のひとりが低いうめき声を漏らした。

 さらに続けて、まだ小学生くらいの子供が、倍くらいの身長がある小太りの男に組み敷かれ、脚を押し広げられて顔を赤らめる映像が流れた。

「●Z☆☆×&$ウ瞬ぴ##」

 別な評議員が悲鳴とも悲嘆とも憤怒の呻きともつかぬものを漏らした。長い触手でテーブルをバンバン叩き始めたので、他の評議員たちは、それを見て「あ、あれって怒りの声だったのか」と理解した。

 ここは銀河系第六管区の宇宙生命体文化機構の評議委員会。

 機構に加盟・非加盟を問わず、管轄区内のあらゆる文化を監視し倫理的な問題がないかチェックし、干渉する団体である。
 彼らが電波を傍受した地球という惑星のなかの日本という国家のバラエティ番組やオタク向けアニメは、「おおいに問題がある」と結論づけられた。

 評議委員会は、地球の代表団らしき国連という組織に通達を送った。

「地球は、自分の子孫を性的に虐待し、加害や暴力を喜ぶコンテンツに溢れた、非常に野蛮な文明の星だということで、対処が必要という結論に達しました。従わない場合、惑星ごと滅亡させることになります」と。

 この通達を受け、日本以外の国々の間では猛烈なジャパン・バッシングが広まり、さらに「こんなコンテンツは即刻止めさせますから滅亡させるなんてやめてください」という嘆願が評議委員会に届けられた。

 が、しかし。
 美しい国・ジャパンの「表現の自由戦士」たちは抵抗した。

「ワイちゃんから萌え絵を取り上げるな!」
「欧米左派の陰謀だ!」
「内心の自由!」
「弱者男性からエロまで取り上げたら、性犯罪が増えちゃうんだゾ!」
「ぴえん」

 至って危機感の足りない身勝手な言い分だが、常日頃からネットにどっぷり浸かっているオタクたちは選挙の際に票数に影響を与える存在だと認識している与党の政治家達は歯切れが悪く、規制は一向に進まなかった。そうこうしているうちに、しびれを切らした西洋諸国は、ブチ切れて「こんなロリペド国家、いらねーよな」とばかりにバスバスと核を撃ち込みはじめた。

「こんな国も文化も、最初からなかったことにしちゃえ」戦法である。

 その様子を見た評議員たちは、「やっぱりこの星、野蛮なんじゃないか?」と思ったが、「まぁ、我々の惑星一個滅亡させちゃうよ」ってやり方もそう変わらないよな、と笑ってスルーしたのだった。

(終わり)
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