第13話 モラル指数

文字数 1,038文字

 とあるSNSを運営する企業が、とある起業家に買収された。
 若くしてやり手と評判の高いその人物は、「今のSNSは、自由とは名ばかり。私が買収したら、もっと発言を自由にします」と発言し、多くの人たちから支持された。
 実際、買収後そのSNSでは、アカウントの停止措置や警告といったほとんど無くなった。それに応じて、短期間の間に<言論の紛争地帯>と揶揄されるほど荒れていった。

 しかし、買収から一年後、事態は一変した。

 その企業では、実はテキストマイニング技術を駆使して、投稿した内容からアカウントの倫理の高さを計っていたことが明らかになったのだ。誰もそれとは気づかなかったのは、あまりにも抽象的な表現で約款を改定していたためだった。

 投稿された内容に、差別的な内容がどれくらいあるか、差別的な投稿への同意の有無、相手を罵倒する言葉や猥語、暴力的な言葉を使う頻度、すぐに感情的になるか否か、差別の対象は何か――性差か肌の色か経済的なものか――等をカウント・計算してはじき出されたデータは「モラル指数」と名付けられ、各企業へと販売された。

 この商品は驚くほど売れた。
 企業の一般社員から軍隊、個人商店のバイトや家庭のお手伝いさんに至るまでありとあらゆる採用において、見知らぬ応募者を品定めするのに重宝された。また、恋愛や結婚相手の調査に使う人、子どもの遊び仲間を調べる親、大学による入試試験の一項目として……個人の倫理感を知っておきたいというニーズは、驚く程高かったのだ。

 さらに、「自由な発言に賛成していた人ほどモラル指数が低くなる傾向がある」という噂が流れると、人々は必死に過去のデータを消した。
 が、企業の巨大なサーバーに一旦保存されたバックアップデータは消すことはできず、却ってそれらの隠そうとした行為をもカウントし、動的(ダイナミック)(バリュー)である「モラル指数」に、さらなるマイナス要因として組み込んでいった。

「訂正された最新の情報でなければ意味がありませんよ」

 当該企業の言葉に、人々は踊らされ、企業や団体は、どんどん情報の取得に金をつぎ込んだ。

 今や、そのSNSは礼儀正しく丁寧でポリティカル・コレクトネスに満ちた投稿しかない。
 しかし、ごくまれに暴力的な言葉に満ちた投稿がある。それらは大抵、「人生に行き詰った可哀そうな人がやけっぱちになって放った言葉」として、他の人々から同情に満ちた言葉をかけられ、それにより自分のモラル指数を高くするための

されるのだった。

(終わり)
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み