第21話 仮想国家

文字数 1,488文字

「国家、はじめました」

 まるで夏の初めの「冷やし中華、はじめました」みたいな感じで、それは始まった。

 大手SNSを運営する会社が始めたハイパーリアルな仮想現実空間「BETA」において、

が実装されたのだ。

「誰でも王様、女王様になれます」

 そんな謳い文句と、課金により、

NPC

機能が付いている点が話題になった。課金額により、NPC臣下の数はどんどん増やすことができる。当然、自分が作った国家に、他ユーザーを招待することもできる。

 王様、あるいは女王様専用の豪華な城、メイド、数々のドレスに豪華な食事……そしてかしずく臣下(イエスマン)たち。まさに夢の空間で、人々は合成された豪勢な暮らしを堪能した。

 しかし、何でもアリの世界では、一般常識に外れた行動を起こす者も出てくる。
 何しろ国家なのだ。一般的には犯罪とされている行為も、自国内では法的に問題ないと主張すれば、犯罪のし放題となるわけだ。
 NPC臣下への暴力や、性暴力。さらに、それらを有料動画として配信する者も出て来た。

 そのため、プラットフォーム企業は、急遽新たな指針を打ち出した。NPC相手なら「思想の自由」ということで何でも許されるが、その行為が現実とリンクした瞬間に摘発されます、と。
 そして、現実世界での法律で違法行為の動画を配信することを犯罪行為と認定し、「有害情報配信罪」として、現実世界で制裁を受けるようにした。

 また、自分の国へ招待した他ユーザーへの暴言やセクハラも問題となった。

 プラットフォーマーは、他国家に行く場合は、録画しておくことを推奨した。さらに、それは義務化され、自動的に録画機能が作動するようになった。トラブルを起こしたユーザーの国家は、プラットフォーマーから渡航禁止国家認定を受けた。それを不服とした嫌がらせの応酬は、喧嘩両成敗として、両者ともにアカウントの停止(アカバン)となった。

 また、トラブルは個人間に留まらなかった。

 現実世界の企業、商品の商標権等の侵害行為も問題となった。
「ここは俺の国だ! 知的財産は各国毎に独立であるからして、日本国の知的財産は、著作権を除き、外国では何の権利も生じないのだ。したがって、模倣されても、権利主張できないのだ」
と、各種二次創作の天国を作り出す者が現れた。
 しかしこれらの国は、熱心な原作原理主義のオタクにより壮絶なネットリンチの制裁を受け、フルボッコにされた。

 また逆に、広告行為も問題とされた。
 豪勢なお城の見学をメインとしたツアーで他ユーザーを呼び込み、国内に設定した広告表示で金を稼ぐというビジネスモデルを考えだしたユーザーがいた。
 しかしこれは、プラットフォーマーによって、すぐに禁止、アカウントの停止(アカバン)の処置を受けた。

 さらに、独立国家を樹立・宣言し、企業本社機能をその中に移設して税金を逃れようとする者も出て来た。自分の国を作り、現実世界の会社をそちらの国営企業としてしてしまえば、法人税が丸儲けになる! 多くの経営者が社会的責任よりも、自分の欲得を優先しようとした。

 それらに対しては、プラットフォーマー側が十分すぎる課税をし、そのプラットフォーマーが現実世界で納税することで結着がついた。

 一連の騒動の後、国家機能搭載による盛り上がりは収束していった。

「結局、大したことなかったな」

 大衆は馬鹿にしたが、一連のブームと商業活動と大騒ぎと炎上の繰り返しの間に、現実世界のデータと紐づいた大量の個人データがプラットフォーマーには蓄積されており、盛り上がりに身を投じていたユーザー達は、その事実を気にもしなかった。

(終わり)
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