第17話 お気持ち代筆業

文字数 871文字

 2022年6月、「侮辱罪」を厳罰化する方向での刑法改正が成立した。

「言論の自由への弾圧! 許すまじ!」の声が上がる一方、「ただの誹謗中傷に言論の自由もクソもあるか!」という反論の声が上がり、ネットでは両者の分断が進んだ。

 そんななか、ある若手起業家が解決兼お金儲けの種を思い付く。

「正当な批判や批評なのか、単なる悪口なのか、自分で判断出来ない人が書くからトラブルが起きてしまうのです。だから論理や文章についての専門知識がある、プロの書き手があなたに代わって文章を書きます」――そんなキャッチコピーがSNSサイトに踊り、「お気持ち代筆業」というサービスが始まった。

 サービス会社にSNSアカウントを登録し、会費を支払うと、書き込んだ内容が一旦サービス会社預かりになり、問題ないものであればそのまま、問題があれば当該部分が削除、あるいは改稿がされた文章が掲載された。

 しかし――

「どうして、元の文章じゃダメなんですか!」
「どこが駄目なんですか、きちんと納得のいく説明をしてください」

 一部の客は、サービス会社が行った修正(リライト)に難癖をつけてきたのだ。そのやり取りが冗長になっていくと、社員の手間ばかりが増え、損益分岐点を下回り、事業は継続できなくなる。そう、彼らはもはや顧客ではなく、ただの迷惑なクレーマーだ。

 サービス会社は、そういった顧客への契約解除とサービス停止を伝える。と、彼らは今度はSNS上で悪評をバラまいた。

 起業家は考えた。そして「こういう客は、

が欲しいのだ!」と思い至った。

 早速、新サービスを思い付き、宣伝を開始する。

「あなたのモヤモヤを解消! 資格を取得した専任のカウンセラーが、カウンセリングを承ります!」

 しかし、今度は、さっぱり客が集まらなかった。

「なぜだろう?」と首を捻る起業家に、社員が言った。

「ああいう人たちは、社会あるいは世間に

だけなんですよ。優越感に浸りたい人たちに、上から目線で『カウンセリングしてあげます』って言っても商売にはならないんですよ」

(終わり)
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