第40話 助けて、ルサンチマーン!

文字数 961文字

【ルサンチマン】(仏:ressentiment)
恨み(の念)。ニーチェの用語では、強者に対し仕返しを欲して鬱結(うっけつ)した、弱者の心。



「ハイ来た、『助けて、ルサンチマーン!』戦法」

 数多のネットスラングを生み出す巨大SNSサイトで、最近流行っているのはこの言いまわしだ。

 ――氷河期世代なのに。
 ――女なのに。
 ――性的マイノリティなのに。
 ――アニオタなのに。
 ――海外ルーツなのに。
 ――コミュ障なのに。
 ――小学校でいじめを受けたのに。

 各種の理由から「私は生きにくさを抱えながら生活している弱者なのに攻撃するのか」と主張し、相手を正面から痛罵するのではなく、弱者を攻撃する

に仕立て上げ、自分の味方を増やそうとする新手の攻撃方法が流行したため、そのカウンターとして生まれたのがこの「ハイ来た、『助けて、ルサンチマーン!』戦法」という言い回しだ。

 不幸を振りかざすような論法に、自身の幸福が非難されているような鬱陶しさと反感を感じていた一部のネットユーザーにとって、この「助けて、ルサンチマーン! 戦法」という揶揄はまさに欲しかったおもちゃのようなものだった。特に、昭和の子供向け変身ヒーローもので育った世代には、この「●●マン」という名称が奇妙になじみ、一気に広まった。

「俺はいじめのトラウマから、人の目を見て喋るのが苦手なんだー!」
「ハイ来た、『助けて、ルサンチマーン!』戦法」

「私たち性的マイノリティは法の整備の遅れのために差別のみならず各種の実生活上の不利益を……」
「ハイ来た、『助けて、ルサンチマーン!』戦法」

「真面目な話、少子高齢化が進んでいる日本で私たちのような海外ルーツの子供への対応がこのような状態では……」
「ハイ来た、『助けて、ルサンチマーン!』戦法」

 その内容にかかわらず、とにかく相手の言い分を茶化し、相手が何か自身の不都合に言及し、その改善の前提として求める理解を一顧だにせず、揶揄という全面否定で答える姿勢は、分断を大きくするだけで、何一つ解決に向かわせず、ただただ、圧倒的な分断感がネット全体を支配し、経済は停滞、GDPはダダ下がり、出生率は低下、自殺率は増加、与党の支持率も低下した挙句、ルサンチマンをこじらせた者たちによるクーデターが勃発し、日本は本格的な内戦の時代に突入した。

(終わり)
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