第37話 映画『きのう何食べた?』

文字数 2,506文字

 ひさしぶりに友人と映画を観に行きました。
 上映まで時間があるので、まずはごはんを食べようということになり、近くのお店へ。個室に落ち着くと、
「ひさしぶりー!」
 と烏龍茶で乾杯。
 コロナ禍以降、不要不急の外出は控えていたので、ほんとうにひさびさの再会。ひとしきり再会をよろこびあい、お互いの近況報告をしつつ、ついでにポケモンGO を開きつつ(フレンドになっているので)、運ばれてきた料理をおいしくいただきました。

 そして、映画館へ移動。
 チケットは友人が予約してくれていて、機械で発券。
 あのですね、わたし、ごはん代も映画代も、一円も出していないのです(汗)
 というのも、友人の旦那さまが、とあるギャンブルで一発当てたとかで、かなりの臨時収入があったらしく。金額を聞いてぶったまげましたが。
 それで、なぜかわたしの食事代もろもろまで旦那さまが出してくださったらしく、恐縮しつつもありがたくごちそうになることにしました。
 めっちゃVIP待遇ですやん……。

 祝日まえのレイトショーでしたが、映画館はさほど混んでおらず、お目当ての映画の劇場も空いていて、ソーシャルディスタンスばっちりで鑑賞できました。

 観た映画は『きのう何食べた?』。
 いわずもがな、よしながふみさんの漫画を映像化した作品です。
 友人は原作を持っていて、わたしは途中まで読んだことがあるという程度。
「貸すよ?」
 といわれたけれど、たぶん読む時間がなかなか取れないと思うし、いつ返せるかわからないので遠慮しました。ただでさえ積ん読たまりまくりなのです。

【以下、ネタバレ注意】

 なるべく本筋のネタバレは避けつつ、細部についてはポロポロと書いてしまうと思います。これからご覧になる予定の方、ネタバレ無理、という方は、この先ご注意ください。








 わたしはテレビドラマのほうを観ていないので、この作品の映像化は今回がはじめてでした。
 冒頭の感想。

 えっ、まんまケンジやん。

 シロさんとケンジが、そこにいました。
 あらすじは公式サイトで公開されているので、ネタバレにはならないと判断して、ここですこし触れます。

 シロさんが、秋の京都旅行へケンジを誘うところから、この物語ははじまります。
 ケンジのよろこび具合がめちゃくちゃかわいい。まじ乙女。こんなによろこんでもらえるなら、旅行くらいいくらでも企画しますやん、と思えてしまいます。

 主人公ふたりはゲイのカップルで同棲しています。
 シロさんは弁護士、ケンジは美容師。
 シロさんはお堅い職業ということもあり、ゲイだということをあまり周囲に知られたくなくて、表面的にはケンジに対してちょっとドライ。(でも、大事に想っているのはひしひしと伝わってきます)
 いっぽうのケンジは、愛情表現まっすぐの猪突猛進タイプ。裏表のない性格で、だれからも愛されるキャラクター。

 シロさんは、お堅い職業に加えて、ものすごい倹約家。仕事帰りに激安スーパーで買いものをするのがほとんど趣味、というレベル。
 この倹約ぶりも、ケンジとふたりで老後を過ごすことを考えてのもの、というモノローグを原作で読んだような記憶があるので、つまりは、愛。趣味かもしれないけれど、愛でもあるはず。

 そんな倹しい暮らしをこよなく愛するお堅いシロさんが、とつぜんいいだした、ふたりでの京都旅行。
 はじめのうちは無邪気によろこんでいたケンジですが、いざ京都にて、シロさんの至れり尽くせりの歓待ぶりを()の当たりにして、だんだん不安に駆られて妄想が暴走しはじめて……

 というのが、映画の冒頭のあらすじ。

 シロさん役は西島秀俊さん、
 ケンジ役は内野聖陽さん。

 このお二方の配役が原作のイメージぴったりで。
 いっしょに観た原作ファンの友人も大絶賛でした。

 ここから続く物語も、笑いあり涙ありの絶妙な塩梅(あんばい)で、わたしも思わず何度も声を出して笑ってしまいましたが、劇場内のほかのお客さんたちも笑っていて、一体感がありました。

 山本耕史さん演じる小日向さんが、これまたいいキャラで、ジャニーズの松村北斗くん演じる田渕くんもとっても良かったです。

 ストーリーの細部で印象に残っている場面はいろいろあるのですが、なかでも、シロさんが断りきれずに担当することになった、裁判員裁判の国選弁護人。
 ホームレス同士のいざこざから片方のひとが亡くなってしまい、その被告人の弁護をすることになるのですが、これがなかなか、胸の詰まる展開に。
 裁判員裁判で、こんな判決が下されるもの?
 まずはそこに衝撃を受けました。
 いや、裁判員裁判制度にはまったく疎いのですが、情状酌量の余地なし? ホームレス仲間が真実を証言してくれているのに?

「私たちのような人間が声をあげたところで届きはしない」
 という趣旨の台詞がやるせないです。
 同じようなマイノリティに属するシロさんの胸には、なおさら突き刺さることばだったのではないかと、あの場面でのシロさんの表情を見て感じました。



 生まれ育った家を出て、自立し、そこでだれかを愛すること。離れた実家で暮らす年老いた親との新たな関係性。
 二時間という限られた短い枠のなかで、すぐ身近にありそうなひとびとの等身大の暮らしぶりや、その心情を、とても丁寧に表現されている作品だなと思いました。
 小日向さん()の高級食材だけは、ぜんぜん庶民的ではないですけど(笑)

 そうそう、肝心な料理ですが、シロさんがのっけからめちゃくちゃおいしそうなリンゴの甘煮(?)を作っていて、それをトーストにのっけて、さらにハーゲンダッツのバニラとシナモンをふりかけるなんて……あな恐ろしや! おいしくないわけがない!
 似たようなものを拙作『兄貴の異常な愛情』の続編のなかで夏樹が冬馬に作ってあげていたな、とふと思い出しました。
 ぜったいおいしい。

 あと、シロさんが帰宅後、ブリ大根を夕飯のおかずに作っていた場面を、映画を観終わったあとに友人と話して、
「仕事から帰ってきてブリ大根作るとか、まじすごいな!」
 とお互い同じことを思っていたようです。
「映画館のスクリーンで観て良かったね」
 とも。

 堪能いたしました。

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