第2話 ハレの日ケの日

文字数 619文字

 仕事から帰宅してごはんを食べるあいだの三十分だけ、お供にタブレットでYouTubeを観ることにしているのですが、声も姿もわからない見知らぬお姉さんがひたすら料理を作って食べるだけ、という字幕つきの動画が好きで、いくつかチャンネル登録をしております。
 見知らぬお姉さんが、お手製の素朴でおいしそうな料理を食べるようすを眺めながら、似ても似つかぬ荒んだファストフードをモサモサと食べるのです(たまにはまともなものも食べますが)。

 その話を友人にしたところ、ポカンとされてしまい、わたし自身も言葉にして説明するうち、なんかふつうにヤバいやつやん、と気づき
「なんか闇が深いね」
 と自嘲すると、すぐさま
「うん」
 と真顔でうなずかれました。

 べつにそのお姉さんがとくべつ好きとか、料理の手順を知りたいとか、見ていて「おいしそう、自分も食べたい」と思うとか、一緒に食事をしている気分になるとか、そういうのはいっさいなく、ただひとつの風景として眺めているだけなのです。
「ぜんぜん意味がわからない」
 とこれまた真顔で返されました。

 まるで自分がひとさまの生活を覗き見している犯罪者のような気がしてきましたが、配信されている以上、観るだけならただの無害な一般人のはず。うん。
 生活の気配というのでしょうか、ひとそれぞれの日々の暮らしを垣間見るのが好きなのです。なんてことのないふつうの日常を見ると安心するというか。

 ハレの日ケの日、のケの日が好きなのです。
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