第39話 『しあわせは食べて寝て待て』

文字数 1,146文字

 水凪トリさんのデビュー作。
 出版社に原稿を持ち込んで、それがそのまま連載ものとして採用されたという驚きの経緯ですが、実際にこのまんがを読んで、納得です。
 とってもよかったので、しゃべログの読書日記からこちらに出張してきました。

 表紙買いです。この生活感あふれる台所と、そこでしあわせそうに笑う主人公の姿にひと目惚れ。

 三十代後半でとつぜん、一生付き合っていかなければならない難病に(かか)り、障害年金を受給するほどの症状ではないけれど、フルタイムで働くことは体力的に難しくなった主人公の麦巻(むぎまき)さん。
 これまでとは違う生活を選ばざるを得なくなった麦巻さんの心もようが、すくないことばと温もりを感じる絵で丁寧に描かれています。

 収入が減ったことから、家賃をはじめとする生活水準を下げる必要に迫られ、新居を探すなかで出会ったひとたちと、薬膳という未知の世界。
 (しゅん)のものをおいしくいただくことを主とし、のめり込みすぎない、程よい距離感で医食同源を生活に取り入れていく過程に共感を覚えます。
「病気を治す」のではなく「体調を整える」ことが薬膳のベースなのかなと思いました。漢方などの東洋医学にはそういうイメージがあります。身近でいうと、お茶などもそうですよね。作中にも出てきます。

 病気に罹ると、体調不良のためとつぜん仕事に穴を空けたり、どうしても周りに迷惑をかけることになりますが、それはだれしもが同じこと。
 でも主人公は「迷惑をかけている」ことが負い目となり、遠回しな嫌がらせをされてもなにもいえず。

「以前の自分は理不尽な扱いには立ち向かえる人間だった。でもいまはその気力も体力もないし、意見できる立場でもないんだ」

 というようなモノローグがとてもせつないです。
 自分ではどうしようもない状況で、いままではできたことができなくなることへのもどかしさ、それによって奪われていく自信、傷ついていくプライド。思い描いていた将来を諦めざるを得ない、悔しさ。
 これまではそんなことなかったのに、急に世界が自分に対してよそよそしくなってしまったような、そんな心許(こころもと)ない、あの感じ。
 読んでいて、胸がキュッとなります。

 でも、麦巻さんはへこたれません。
 心やさしいひとたちとの出会いを経て、いまの自分の状態に合わせた生活を新たに築いていきます。
 麦巻さんを取り巻く周囲のひとびとも、それぞれすてきな人柄で、近すぎず遠すぎない程よい距離感と、相手への思いやりが感じられて、こういう関係性いいなぁと思いました。
 わたしは青葉さんが好きです。

 一巻は電子書籍で購入したのですが、二巻は紙の本で買いたいなと思って、まだお預け状態です。
 続きが楽しみです。

 あたたかい部屋であたたかい飲みものといっしょに、ゆっくり読みたい一冊です。
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