第47話 味覚と嗅覚

文字数 934文字

 とある飲食店で働いていたときのこと。
 そのお店には十代後半から二十代くらいの若いアルバイトさんが何人かいました。

 そのなかに、まったく違う環境で育ったふたりの女性アルバイトさんがいて、ふたりともが、食べものの腐った臭いがわからない、というのです。
 もちろん、食べてもわからない。あとで具合が悪くなってはじめて
「あれ(いた)んでいたんだ」
 とわかるのだといいます。

 たとえば、野菜のキャベツや大根って、傷みかけだとけっこう強烈な臭いがしますよね。でも、彼女たちにはまったく判断がつかないそうで。
 ふつうに鼻はきくし(おいしそうな匂いなどは感じるとのこと)、味もわかるけれど、腐った臭い、腐った味だけがわからない。

 自然界でなにかに対して「(くさ)い」と感じるのは、それは食べものではない、それを食べてはいけない、と判断するための能力、生存本能のようなものだと、なにかで読んだような覚えがあります。排泄物が臭うのも、それを誤って口にしないため、という話を聞いたこともあります。

 (

など、あえて強烈な臭いのするものを食する文化も存在しますけれど)

 視覚や聴覚と同じように、嗅覚から得る情報も膨大です。

 天然ガスや液化石油ガスはもともと無臭だそうですが、万が一、ガス漏れが発生した際にすぐに気づきやすいように、あえて付臭(ふしゅう)(臭い付け)をされているそうです。

 余談ですが、以前住んでいたアパートの部屋で、わたしが不在のあいだにガス漏れが発生したらしく、職場に大家さんから連絡が入ったことがあります。
 幸い、ガス会社のほうでガス漏れを検知してくださったそうで、すぐに対応してもらえました。
(大家さんからはそう説明を受けたのですが、逆で、部屋のガス漏れ警報器が鳴ったため、大家さんがあわててガス会社に連絡してくれたのでは? とも思いました。当時、大家さんは隣の部屋に住んでいたので)
 それ以来、ガスの臭いにはものすごく敏感になりました。帰宅したら、たしかにガス臭かったので。

 食中毒など、命に関わるかもしれない危険を臭いや味で察知できない、というのは、とても不便だし恐ろしいだろうなと思います。見た目で判断するしかない。

 彼女たちはいまごろどうしているだろう。
 ときどきふと思い出します。
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