第5話 両手は空けておきたい

文字数 1,845文字

 身も蓋もない表現をすれば、歳のせいでしょうか。最近めっきり物欲が薄れてきました。あくまで薄れてきただけで、ないわけではないのです。
 そして、物欲は減退気味ですが、食欲は旺盛です。先日、一週間ほど寝込み、絶食を余儀なくされたせいか、もう、なにを食べてもおいしくてしあわせです。

 欲しいものはそれなりにあるのですが、所有欲がないのです。なるべく手許にものを置きたくない。
 べつにミニマリストではないのです。たぶん。ミニマリストの定義がわかりませんが、すくなくともその自覚はありません。
 所有するということは管理しなくてはならない。その手間がめんどうなのです。ものが増えると掃除がしにくくなるし、引っ越すときに大変な手間がかかります。段ボールがいくつあっても足りません。

 唯一の例外は、本でしょうか。
 好きな作家さんの本は買いますし、本棚に並べて保管しています。最近は電子書籍率が高くなってきました。
 管理がめっちゃ楽。欲しいときにその場ですぐにダウンロードできるし。
 紙の本と電子書籍、どちらを購入するかは、そのときの気分によります。どちらかといえば、漫画は電子書籍、小説は紙の本、というパターンが多いでしょうか。
 以前は小説もKindleで購入していたのですが、いまの家に越してきてからWi-Fiを繋いでいないので新たにダウンロードができず。わが家のKindleは、ありがたいことに雑誌の懸賞で当選した際にいただいたものです。じつは、立て続けに2台、べつの雑誌でKindleをいただきまして(たぶんなにか憑いていた)、1台は友人に譲りました。お礼にとAmazonギフト券をいただいたので、ありがたく本を大人買いしました。よい思い出です。
 ちなみに、このサイトの更新はすべてスマホとタブレットで行っております。Wi-Fiがないので。主にタブレットです。画面が大きいので見やすいですし。

 テレビは学生時代以来、ほとんど観ていません。かれこれ二十年くらい?
 当時、友人宅のテレビが故障したというので、わたしの部屋にあったテレビを譲って以来、ご無沙汰です。その友人から、引っ越し祝いに電子レンジをいただいたので、冷凍食品がおいしく食べられるようになりました。とても重宝しております。
 友よ、ありがとう。そして文明の利器に感謝。
 電子レンジも、父が亡くなったあとすぐに故障して、それ以来、電子レンジなしでの生活を送っていたのです。こちらも二十年ほど前でしょうか。
 案外、なくても生活できます。

 なにかを購入するときは、それを手離すときのことをまず考えて選びます。処分の方法です。電化製品以外、自分ひとりで持ち運びできないものは買わない。これが基準です。わが家の家具や電化製品のなかで、わたしひとりで運べないのは洗濯機だけです。冷蔵庫はちいさいので、かろうじていけます。
 家具も、自分より背の高いものはありません。これは地震に備えて、というのもありますが、圧迫感があるのが苦手なのです。たとえていうなら、図書館の子ども向けの書架が理想。あの広々とした空間が好きです。

 閑話休題。

 手に持てる荷物には限りがあります。両手が塞がると不便ですし、かといって背中に負うと身動きが取りづらくなります。
 身軽でいたいのです。
 出かけるときも、なるべく荷物は減らします。なんなら、ポケットにお財布とスマホと鍵だけ突っ込んで出かけます。近場なら鍵と小銭だけ持っていきます。
 もし万が一、なにかあったときは、そのときに考えます。
 なんとかなるものです。

 くだんの友人に、
「ある日とつぜんふらっといなくなりそうで怖い」
 といわれたことがあります。
 そんなことはしません。それはわたしの母親です。
 ふらっといなくなって三十年ほど経つでしょうか。
 よい反面教師になってくれました。

 猫たちがいるので。どこへも行きません。
 近藤史恵さんの『ガーデン』という小説だったと思いますが、火夜(かや)という名前の女性が、ある男性に、拾ってきた猫だか犬だかを押しつけて面倒を見させる場面があったように記憶しております。男性は気が進まないようすでしたが、火夜は
「この子がいるから、どこへも行けないでしょ」
 というような台詞をいうのです。
 これは威力のある呪いです。
 幸福な呪い、とでもいうべきか。
 その男性にとってどうなのかはわかりませんが、わたしにとってはそうなのです。

 この子たちを抱くためなら両手が塞がっても致し方ない。甘んじて受け入れます。
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