第49話 生理の貧困

文字数 2,376文字

 生理の貧困という言葉を最近ネット上でよく目にします。
 これは、生活苦などにより毎月必要な生理用品を入手することが困難な状況を表す言葉だそうです。
 今回はそのお話をしたいと思います。

 以前、同じテーマの文章をしゃべログにアップした際、
「これは表に掲載してもよいのでは」
 というご助言をいただきました。自分のなかでも、はじめどちらに書こうかという迷いがあったので、そのお言葉に背中を押していただくかたちでこちらにもアップすることにしました。
 佐久田さん、しおむすびさん、ありがとうございます。あらためてお礼申し上げます。

 ***

 生理の貧困に対する意見で散見されるのが、
「スマホを持っているなら生理用品くらい買えるでしょ」
 というもの。
 その理屈は正直わからないでもない。ふつうに買えばスマホは高級品ですし、毎月の使用料や機種代金を払うお金があるなら数百円の生理用品くらい買えるでしょ、という考え方は理解できます。
 でも、問題はたぶんそこじゃない。

 いまの時代、スマホはもはや贅沢品ではなく必需品といえるのではないでしょうか。自宅に固定電話をひいていない家庭も増えているのではないかと思います。わが家もそうです。

 以前、ネットカフェ難民を取材したドキュメンタリー記事を読みました。
 ネットカフェ難民というのは、住む場所がなく、ネカフェを根城(ねじろ)としてそこで寝起きするひとたちのことをいいます。
 彼らにとってスマホは生命線です。仕事を探したり単発のアルバイトへの応募は、スマホなくしては成り立ちません。いまの時代、個人の連絡先のわからない人間を雇う企業はそう多くないでしょう。
 それでもなお、
「スマホを持っているなんて贅沢だ」
「スマホを手放せば生活費の足しになるのでは」
 という意見を目にすることがあります。

 たとえば女子学生で、生活苦のため毎月の生理用品の購入が難しい、けれどスマホは持っている、というひとがもしいたら、
「スマホを手放してナプキンを買ったら?」
 というのでしょうか。

 ソーシャルゲームなどに課金してお金が足りない、というのならそれもわかりますが、毎月やりくりをして格安スマホや学割で費用を抑えているのにそれでも余裕がない、という女子学生もいるかと思います。
 外側からは(うかが)い知れない家庭の事情というものがあります。

 そういったひとたちに手を差しのべるため、生理用品の無料配布を目指した取り組みなどがなされているようです。
 先日、Twitter で目にしたのですが、学校でトイレに生理用品を無料設置する案に対して、
「そんなことをすると生徒が甘えて生理用品を持参しなくなるからやめたほうがいい」
 という意見が出た、というような話で、唖然としました。
 実際にその取り組みを始めてみて、万が一、そういう課題が出てきたらその都度対処を考えればよいのではと思うのですが。なんでそこで「甘え」という言葉が飛び出すのか。



 そもそも、ふつうに暮らしていて生理用品のような必要不可欠なものが買えない経済状況の家庭が少なくない、という現状が問題なのでは。
 経済格差は広がる一方。
 いまはふつうに生活できていても、ひとたびなにかが起きればあっという間に貧困へと落ちてしまう可能性がある社会です。
 (かつてのわたしがそうでした)
 それでも「自己責任」「運が悪かった」で片付けられてしまう。
 しんどい時代だなと思います。

 生理の貧困にはもうひとつ問題があって、経済的な貧困ではないけれど、たとえば、初潮を迎えた娘に親(とくに母親)がじゅうぶんな生理用品を買い与えない(買えないわけではなく、故意に与えない、つまり虐待のようなもの)ことや、父子家庭に育ったこどもがその時期を迎えても父親にいいづらくて必要なケアができない、などがあるようです。

 前者は、娘がおとなの女性へと変化し成長することを母親が嫌悪し拒絶する、というものでしょうか。この母親の心理を想像すると、かなり深い闇を感じます。

 後者は、わたし自身がこの家庭環境で育ったので身に覚えがありますが、幸いというべきか、当時のわたしには恥じらいというものがあまりなく、その状況に直面したとき、
「あ、これば自分の手に余る問題だな」
 と早々に匙を投げて父親に
「どうやら生理というものになったっぽいのだがどうしたらよいだろうか」
 と直球を投げたため、それをまともに食らった父親のほうが激しく動揺していました。
 いま思うと申し訳ない……。

 現実には、そうでないこどものほうが多いのではないかと思うので、年ごろの娘さんに対する周囲からのケアがあれば、だいぶ違うだろうなと思います。

 実際、わたしがこどものころは、どこで生理用品を買うのかわからなかったし(当時はまだインターネットが普及していませんでした)、なにより、狭い田舎でだれが見ているかわからないので買うところを見られたくない、という思いがありました。
 では、どこでそういったものを入手していたかというと、父親の行きつけの飲み屋のママさんが代わりに買ってくれていました。父親がママさんに代金を渡してお願いしてくれていたのです。とても助かりました。
 母親がいないこどもにとって、親身になってくれるおとなの女性からの手助けは、ほんとうにありがたいものでした。

 生理は、ほとんどの女性が長い期間つきあっていかなくてはならない毎月の一大事です。おとなですら、毎月憂鬱だしめんどくさいし体調微妙だししんどいし、となります。
  おとなへと一歩足を踏み出した少女たちが、その出だしや早い時期に不安を感じたり不快な思いをすることがないよう、必要なものを速やかに手に入れられる環境が整うことを願います。

 女になんか生まれなければよかった、という呪いを、少女たちが自分にかけてしまわないように。
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