九十五 重鬼
文字数 3,972文字
控えたまま動かずにいた二騎が頭を垂れると御神体が静かに顔を上げた。感慨深げに双方へ顔を向けてから「面を上げなさい」と声を発した。
初めて聞く沙羅様の声。千年以上もの間、御神体の中にいた人――
その声の物腰の柔らかさに、初めて御神体を見た時直君が口にした『母さんがそこにいるような、そんな優しさが伝わってくる』との言葉が頭を過ぎった。
「沙夜、立派な武者姿ですね」
「ありがとうございます」
「主様は、もう少しの眠りが必要です。今暫くは夢現ノ揺れ籠が添い人、この厨川ノ沙羅が御神体をお預かり致します」
「御意」
「貞任、皆は」
「下に控えさせております」
「――では、参りましょう」
「御意」
御神体は二騎を従えて境内から楼門の先にある石段に向かった。
いつしか明るくなり始めた参道を歩く三騎をモニタにしがみつくようにして見ていた。
石段の上に三騎のものの具が姿を現すと合わせたかのように朝日が差し込み、先輩と貞任様が履くものの具の赤と白を添えた白銀の御神体が神々しい光を放つ。
参道に居並ぶ全ての護神兵は深々と頭を垂れ、御所の人たちも各モニタに映し出された美しい三騎のものの具に手を合わせている。
その中で、私はモニタから視線を落として独り立ち竦んでいた。
「……ん?」
微かな大地の揺れを感じた。
「重鬼 復活。東ノ重鬼復活しました」
スタッフが驚きを隠すように告げてくる。
「重鬼ッ、他の重鬼は!」驚きを隠せないままに塔子さんが問いかける。
「南、西、北、残る全ての重鬼も姿を現し始めています」
メインモニタに東ノ重鬼が映し出された。
「こッ、――これが、重鬼」思わず声が漏れた。
まだ全容が見えたわけではないが、その異様さがいやというほどモニタ越しに伝わってくる。
「山神様に仕える御厨の守護神です」
塔子さんの声は震えていた。
「御厨を囲む東西南北の山々の頂きに祀られた重鬼石。その下に眠るといい伝えられてきた御厨の守護神。――本当に居たのですね」
「御厨の誰であれ、いいえ、どれほど時代を遡っても誰一人見たことはない伝説の守護神です」
「うッ!」思わず身を引いた。
画が引かれ、上半身まで姿を現した東ノ重鬼がメインモニタに映し出されると、その巨大な姿にたじろいだ。上半身だけでも優に三百メートルを超え、岩で造られた巨大な鬼の身体は所々に亀裂が走り、その裂け目から溶岩と思われる赤々とした光を放っている。
「こ、こんな怪物を山神様が、直君が使役しているの」
御厨を囲む四方の山の頂に四体全ての重鬼が上半身を現すとどこからともなく山犬の遠吠えが聞こえ、それに呼応したかのように全ての重鬼が雄叫びを上げた。その凄まじい叫びは大地を揺るがせ日高見の山々にこだましていく。
雄叫びの揺れを耐えるように近くの物に掴まり、少しずつ揺れが収まって手を離すとスピーカーから道真様の焦った声が聞こえてくる。
「美波さん、サブモニタを見てください! 護神兵の同期率を映したものです」
「全てが百パーセントを超えている――」
「はい、低い者では五十いかない同期が全て百を上回り計測不能です」
「これって、履いてる人がものの具に取り込まれるってことですか」
「……分かりません」
まずい、アキちゃんがものの具に喰われる――
そんな焦りを覚えた時、常に冷静な対応をしていたスタッフが慌てた声を出した。
「た、大変ですッ! アメリカ太平洋艦隊所属の原潜より弾道弾ミサイル二発が発射されました」
「か、――核が搭載されているの」愕然と口にした。
これが、護神兵の次―― そうならあまりにも、あまりにも愚かすぎる。
「東ノ重鬼、いや、東と南ノ重鬼に動きが」
重鬼たちは両手を大地に落として頭を垂れ、その大きな口から少量の溶岩を吐き出していた。その中で南ノ重鬼が口を固く閉じて大地より手を離し、その巨体を東へと静かに向けていく。
その恐ろしい形相で青い海原の先を見据える。
「うッ! 何、この音は」底知れぬ恐怖に身が震えた。
地の底から何かが湧き上がってくるような地響きに身体が揺らされる。
目の前のサブモニタに必死に掴まり、メインモニタに視線を戻すと南ノ重鬼の身体が激しく輝き出していた。
僅かに空を見上げて顔を歪めた南ノ重鬼は、その口からとてつもなく大きな火の柱を海へ向けて放った。メインモニタは閃光を放って激しく揺れ、耳を劈くほどの大きな音をスピーカーが発した。
全てのモニタが、音が消えた。
緊張の糸が張り詰めた静寂の中、凄まじい衝撃波と大きな大地の揺れが御厨を襲う。
状況を把握できないまま必死でサブモニタにしがみ付いた。
大きな揺れが徐々に収まりをみせると、回復したモニタに項垂れた南ノ重鬼が映し出される。
声を出すことを忘れたかのようにモニタを、南ノ重鬼を見ていた。
「アメリカ太平洋艦隊、後方三十キロを飛行中の海自P-2哨戒機よりの入電を傍受!」
スタッフの声が響く。
「『御厨から放たれた巨大な火の柱は屈曲しハワイ沖西南西三千キロ地点に待機していたアメリカ太平洋艦隊に着弾。艦隊は壊滅状態と思われる。二十キロ離れた地点でさえ水蒸気爆発によって視界0の状態。爆風により本機も航行に難あり、ヒッカム空軍基地に戻りたし』――とのことです」
塔子さんが悲痛な面持ちで問いかける。
「弾道弾を発射した原潜の位置は?」
「太平洋艦隊の北西二キロです」
「共に壊滅か。――んッ? また、くるッ!」
「東ノ重鬼に動きあり!」
地響きに揺れ始めたメインモニタに東の空を見上げる重鬼が映し出された。
南ノ重鬼と同じように身体を激しく輝かせた東ノ重鬼は、その無機質な表情をそのままに口から巨大な火の球を空へ立て続けに三つ放った。その衝撃波、地響きは南ノ重鬼のときよりも弱くモニタの画像は激しく揺れたがかろうじて消えることなく東ノ重鬼を映し出している。
数秒後、南ノ重鬼のときよりも弱い爆風と大地の揺れが御厨を襲う。
「東ノ重鬼は、まだ空を見ていますね」サブモニタに掴まりながら言った。
「撃ち漏らしがあるか見てるのでしょうか」
「弾道弾が見えているってことですか」
スタッフが安堵の顔を向けた。
「弾道弾ミサイル、二発共にレーダーから消えました。空を見上げていた東ノ重鬼も姿勢を元に戻しています」
「御蔵とリンクしているようですね」
そう返すと、あまりの展開の早さと恐怖で無意識に硬く握りしめた手に気付いた。
その手に視線を落とし、緩めようとした。
どれ程強く握りしめていたのだろう―― 握力を使い果たしたその手は自らの力では開かない。そして、開かぬ手にもう片方の開かぬ手をあてがった時だった。スタッフが監視するサブモニタに突如世界地図が映し出された。
「メインモニタに切り替えます」
「こ、今度は何ッ!」緊張した顔を向けた。
メインモニタの画は世界中のネットワークを御蔵が侵食していく進行状態を示したものだった。既に九十九・九%をコントロール下に入れていた。
「凄い――」
呟くように言ってメインモニタに見入っていると、スタッフが「これを」とサブモニタの画を見せた。
平常心を取り戻しつつサブモニタに視線を移した。――が、また表情を強ばらせて「メインモニタに!」と叫んだ。
モニタを見ながらスタッフが補足する。
「海自の小型護衛艦からの映像です。先程の南ノ重鬼が放った火の柱が着弾した衝撃で発生したものと思われます。二百メートル以上の高さと推測。小型護衛艦はなんとか乗り越えたようです。――次の画は、小型護衛艦後方五キロのイージス艦からのものに替わります」
モニタにはアメリカ太平洋艦隊と合流するためハワイ方面へ向かう海自の艦隊がトドヶ崎約三千キロ沖で撮ったとてつもなく大きな津波の映像が映し出されていた。
「こんな大波が来たら……」
「このままの潮位が維持されたら、いや、仮に半分程の潮位になったとしても太平洋沿岸の都市は壊滅です。東京はおろかかなり内陸まで到達します」
「核より酷いことになる。――日本が終わる」
「撮影しているイージス艦には一分後に到達します」
「乗り越えられるの」塔子さんが問いかける。
「小型の護衛艦はなんとか乗り越えましたが、この波長では中型のイージス艦以上は難しいかと」
塔子さんと私が悲痛の表情を浮かべると、スタッフが「な、なんでしょう」と、モニタの隅に目を懲らした。
「――何、原潜? いや、もっと大きい」塔子さんもモニタに目を懲らす。
大波に向かうイージス艦左前方の海面上へ得体の知れぬ巨大なものが海中から姿を現し始める。
あれは、先輩を連れて行った女の子―― そう呟き、すぐに「先輩が、海神様が復活したんだッ!」と大きな声を上げた。
イージス艦をのみ込もうとしていた大波は徐々に速度を緩めた。巨大な海神様の前で動きを止めた。そして、数秒の間、まるで時間が止まってしまったかのような静寂を経て周りへ分け与えるかのように二百メートル以上あった潮位を下げていく。
「五体の巨大生命体により全方向の巨大津波が消滅」
「助かった」と、力が抜けていくようにして椅子に座り込んだ。「凄すぎるよ、直君も先輩も――」そう言って椅子の上で身体を丸めて腿に肘を落とした。
両手で頭を抱えた。
きっと、核弾頭なんて載っていない―― 知らしめたんだ、御厨の凄さを――
世界中から恐れられる護神兵、その首を取る鬼神のような先輩と貞任様。人の愚かな所業に重鬼を使って山神様が下した制裁。そして、太平洋全域の都市を全滅させかねない大津波と、それを容易く消した海神様の力――
蒼君ノ巫女や沙樹様は何をしようとしてるんだろう…… 御神体の覚醒を妨げようなんてしてない。
「純菜先輩、いったい何を信じればいいんですか? やっぱり、先輩がいてくれないとダメそうです、私――」
初めて聞く沙羅様の声。千年以上もの間、御神体の中にいた人――
その声の物腰の柔らかさに、初めて御神体を見た時直君が口にした『母さんがそこにいるような、そんな優しさが伝わってくる』との言葉が頭を過ぎった。
「沙夜、立派な武者姿ですね」
「ありがとうございます」
「主様は、もう少しの眠りが必要です。今暫くは夢現ノ揺れ籠が添い人、この厨川ノ沙羅が御神体をお預かり致します」
「御意」
「貞任、皆は」
「下に控えさせております」
「――では、参りましょう」
「御意」
御神体は二騎を従えて境内から楼門の先にある石段に向かった。
いつしか明るくなり始めた参道を歩く三騎をモニタにしがみつくようにして見ていた。
石段の上に三騎のものの具が姿を現すと合わせたかのように朝日が差し込み、先輩と貞任様が履くものの具の赤と白を添えた白銀の御神体が神々しい光を放つ。
参道に居並ぶ全ての護神兵は深々と頭を垂れ、御所の人たちも各モニタに映し出された美しい三騎のものの具に手を合わせている。
その中で、私はモニタから視線を落として独り立ち竦んでいた。
「……ん?」
微かな大地の揺れを感じた。
「
スタッフが驚きを隠すように告げてくる。
「重鬼ッ、他の重鬼は!」驚きを隠せないままに塔子さんが問いかける。
「南、西、北、残る全ての重鬼も姿を現し始めています」
メインモニタに東ノ重鬼が映し出された。
「こッ、――これが、重鬼」思わず声が漏れた。
まだ全容が見えたわけではないが、その異様さがいやというほどモニタ越しに伝わってくる。
「山神様に仕える御厨の守護神です」
塔子さんの声は震えていた。
「御厨を囲む東西南北の山々の頂きに祀られた重鬼石。その下に眠るといい伝えられてきた御厨の守護神。――本当に居たのですね」
「御厨の誰であれ、いいえ、どれほど時代を遡っても誰一人見たことはない伝説の守護神です」
「うッ!」思わず身を引いた。
画が引かれ、上半身まで姿を現した東ノ重鬼がメインモニタに映し出されると、その巨大な姿にたじろいだ。上半身だけでも優に三百メートルを超え、岩で造られた巨大な鬼の身体は所々に亀裂が走り、その裂け目から溶岩と思われる赤々とした光を放っている。
「こ、こんな怪物を山神様が、直君が使役しているの」
御厨を囲む四方の山の頂に四体全ての重鬼が上半身を現すとどこからともなく山犬の遠吠えが聞こえ、それに呼応したかのように全ての重鬼が雄叫びを上げた。その凄まじい叫びは大地を揺るがせ日高見の山々にこだましていく。
雄叫びの揺れを耐えるように近くの物に掴まり、少しずつ揺れが収まって手を離すとスピーカーから道真様の焦った声が聞こえてくる。
「美波さん、サブモニタを見てください! 護神兵の同期率を映したものです」
「全てが百パーセントを超えている――」
「はい、低い者では五十いかない同期が全て百を上回り計測不能です」
「これって、履いてる人がものの具に取り込まれるってことですか」
「……分かりません」
まずい、アキちゃんがものの具に喰われる――
そんな焦りを覚えた時、常に冷静な対応をしていたスタッフが慌てた声を出した。
「た、大変ですッ! アメリカ太平洋艦隊所属の原潜より弾道弾ミサイル二発が発射されました」
「か、――核が搭載されているの」愕然と口にした。
これが、護神兵の次―― そうならあまりにも、あまりにも愚かすぎる。
「東ノ重鬼、いや、東と南ノ重鬼に動きが」
重鬼たちは両手を大地に落として頭を垂れ、その大きな口から少量の溶岩を吐き出していた。その中で南ノ重鬼が口を固く閉じて大地より手を離し、その巨体を東へと静かに向けていく。
その恐ろしい形相で青い海原の先を見据える。
「うッ! 何、この音は」底知れぬ恐怖に身が震えた。
地の底から何かが湧き上がってくるような地響きに身体が揺らされる。
目の前のサブモニタに必死に掴まり、メインモニタに視線を戻すと南ノ重鬼の身体が激しく輝き出していた。
僅かに空を見上げて顔を歪めた南ノ重鬼は、その口からとてつもなく大きな火の柱を海へ向けて放った。メインモニタは閃光を放って激しく揺れ、耳を劈くほどの大きな音をスピーカーが発した。
全てのモニタが、音が消えた。
緊張の糸が張り詰めた静寂の中、凄まじい衝撃波と大きな大地の揺れが御厨を襲う。
状況を把握できないまま必死でサブモニタにしがみ付いた。
大きな揺れが徐々に収まりをみせると、回復したモニタに項垂れた南ノ重鬼が映し出される。
声を出すことを忘れたかのようにモニタを、南ノ重鬼を見ていた。
「アメリカ太平洋艦隊、後方三十キロを飛行中の海自P-2哨戒機よりの入電を傍受!」
スタッフの声が響く。
「『御厨から放たれた巨大な火の柱は屈曲しハワイ沖西南西三千キロ地点に待機していたアメリカ太平洋艦隊に着弾。艦隊は壊滅状態と思われる。二十キロ離れた地点でさえ水蒸気爆発によって視界0の状態。爆風により本機も航行に難あり、ヒッカム空軍基地に戻りたし』――とのことです」
塔子さんが悲痛な面持ちで問いかける。
「弾道弾を発射した原潜の位置は?」
「太平洋艦隊の北西二キロです」
「共に壊滅か。――んッ? また、くるッ!」
「東ノ重鬼に動きあり!」
地響きに揺れ始めたメインモニタに東の空を見上げる重鬼が映し出された。
南ノ重鬼と同じように身体を激しく輝かせた東ノ重鬼は、その無機質な表情をそのままに口から巨大な火の球を空へ立て続けに三つ放った。その衝撃波、地響きは南ノ重鬼のときよりも弱くモニタの画像は激しく揺れたがかろうじて消えることなく東ノ重鬼を映し出している。
数秒後、南ノ重鬼のときよりも弱い爆風と大地の揺れが御厨を襲う。
「東ノ重鬼は、まだ空を見ていますね」サブモニタに掴まりながら言った。
「撃ち漏らしがあるか見てるのでしょうか」
「弾道弾が見えているってことですか」
スタッフが安堵の顔を向けた。
「弾道弾ミサイル、二発共にレーダーから消えました。空を見上げていた東ノ重鬼も姿勢を元に戻しています」
「御蔵とリンクしているようですね」
そう返すと、あまりの展開の早さと恐怖で無意識に硬く握りしめた手に気付いた。
その手に視線を落とし、緩めようとした。
どれ程強く握りしめていたのだろう―― 握力を使い果たしたその手は自らの力では開かない。そして、開かぬ手にもう片方の開かぬ手をあてがった時だった。スタッフが監視するサブモニタに突如世界地図が映し出された。
「メインモニタに切り替えます」
「こ、今度は何ッ!」緊張した顔を向けた。
メインモニタの画は世界中のネットワークを御蔵が侵食していく進行状態を示したものだった。既に九十九・九%をコントロール下に入れていた。
「凄い――」
呟くように言ってメインモニタに見入っていると、スタッフが「これを」とサブモニタの画を見せた。
平常心を取り戻しつつサブモニタに視線を移した。――が、また表情を強ばらせて「メインモニタに!」と叫んだ。
モニタを見ながらスタッフが補足する。
「海自の小型護衛艦からの映像です。先程の南ノ重鬼が放った火の柱が着弾した衝撃で発生したものと思われます。二百メートル以上の高さと推測。小型護衛艦はなんとか乗り越えたようです。――次の画は、小型護衛艦後方五キロのイージス艦からのものに替わります」
モニタにはアメリカ太平洋艦隊と合流するためハワイ方面へ向かう海自の艦隊がトドヶ崎約三千キロ沖で撮ったとてつもなく大きな津波の映像が映し出されていた。
「こんな大波が来たら……」
「このままの潮位が維持されたら、いや、仮に半分程の潮位になったとしても太平洋沿岸の都市は壊滅です。東京はおろかかなり内陸まで到達します」
「核より酷いことになる。――日本が終わる」
「撮影しているイージス艦には一分後に到達します」
「乗り越えられるの」塔子さんが問いかける。
「小型の護衛艦はなんとか乗り越えましたが、この波長では中型のイージス艦以上は難しいかと」
塔子さんと私が悲痛の表情を浮かべると、スタッフが「な、なんでしょう」と、モニタの隅に目を懲らした。
「――何、原潜? いや、もっと大きい」塔子さんもモニタに目を懲らす。
大波に向かうイージス艦左前方の海面上へ得体の知れぬ巨大なものが海中から姿を現し始める。
あれは、先輩を連れて行った女の子―― そう呟き、すぐに「先輩が、海神様が復活したんだッ!」と大きな声を上げた。
イージス艦をのみ込もうとしていた大波は徐々に速度を緩めた。巨大な海神様の前で動きを止めた。そして、数秒の間、まるで時間が止まってしまったかのような静寂を経て周りへ分け与えるかのように二百メートル以上あった潮位を下げていく。
「五体の巨大生命体により全方向の巨大津波が消滅」
「助かった」と、力が抜けていくようにして椅子に座り込んだ。「凄すぎるよ、直君も先輩も――」そう言って椅子の上で身体を丸めて腿に肘を落とした。
両手で頭を抱えた。
きっと、核弾頭なんて載っていない―― 知らしめたんだ、御厨の凄さを――
世界中から恐れられる護神兵、その首を取る鬼神のような先輩と貞任様。人の愚かな所業に重鬼を使って山神様が下した制裁。そして、太平洋全域の都市を全滅させかねない大津波と、それを容易く消した海神様の力――
蒼君ノ巫女や沙樹様は何をしようとしてるんだろう…… 御神体の覚醒を妨げようなんてしてない。
「純菜先輩、いったい何を信じればいいんですか? やっぱり、先輩がいてくれないとダメそうです、私――」