九十 異形なるものたちの宴(二)
文字数 2,081文字
「続いて秋葉の対象も沈黙」
スタッフの声が響く。
「さすがだねアキちゃん。添い人さんと上手くやってる」
一人ほくそ笑んだ。
接触して僅か十分程で沙夜先輩と秋葉ちゃんが二体の敵を倒し、すぐに貞任様たちが合流した。残った三騎の敵を数で沖合へと押していく。
「行平、義平、夏海。重矢を放つ故、上手く逃げろよ!」
手はずどおりに敵を陸から離したところで貞任様が重矢を放つ。
放った重矢はアラバマで放たれたものの数倍の威力があり、傍らにいた夏菜ちゃんと数騎がその衝撃波で飛ばされた。
夏海ちゃん等三騎の他、異様に動きが早い敵の一騎がかろうじて躱し、直撃を受けた敵の二騎が吹き飛ばされて跡形もない。数キロ先を飛翔体だけが東へ向けて飛び去って行く。
「貞任様、躱したあの一騎は他のものとは動きが違います」
「ほう、良く視ていてくれたな美波。ならば、この貞任が相手をしよう」
残った一騎を追って貞任様が駆け出すと、慌てて夏菜ちゃんが後を追った。
それを見た秋葉ちゃんと夏海ちゃんが沙夜先輩に顔を向ける。了承を得て同じように駆け出して行く。
夏菜ちゃんから画が送られてくると、後ろ手に結った髪を靡かせて駆ける貞任様のものの具がモニタに映し出された。
その画からは、まるで映画のワンシーンを撮ろうとするカメラマンかのような意図が感じ取れた。
「まったく、女子共は置かれた状況を分かっとらん。と言うか、余裕があるというか――」
道真様が呆れ顔をモニタに向けている。
夏菜ちゃんの必死さが伝わっていた。傍らの塔子さんのモニタを見つめる顔が物語っている。
若い夏菜ちゃんは御厨の女たちの期待を一身に背負って必死なのだ。それだけ貞任様の履くものの具の姿は美しく死に向かうかのような悲しみすら漂わせ、女心を、母性を切なくも締め付けてくる。
神の領域か――
思わず口にした。
その貞任様が秋葉ちゃんたちが追って来たことに気付く。
「どうした、夏海。助っ人か」
「私があれを追っていました。太刀を浴びせて躱された時『あの時のお嬢さんか』と言う声が聞こえました」
「もしや、春菜を」
「はい、間違いありません。私たちにやらせてください」
「お願いします」秋葉ちゃんも続いた。
「分かった。春菜の仇、三女のお前たちでケリを付けろ。――夏菜、お前は私から離れるな」
貞任様は速度を緩めて二人を先行させた。
「アキ、私は援護に回る。ハルの大親友だったあなたがやりなさい。秋葉として泣いてあげられなかった分、思いっきり!」
「――承知ッ」
秋葉ちゃんはそう言い残し、対象に向かって全力で駆け出して行く。しかし先程の相手とは違い秋葉ちゃんでも近付けないほどに動きが速い。
「アキ、矢で足を緩めるから右手に的を絞って!」
回り込んでいた夏海ちゃんが叫んだ。
「彼奴に矢は効かない」
「そいつは異常なほどに矜持が高い。一々矢を躱す」
夏海ちゃんは間髪を入れずに矢を放った。
予想どおりだった。
凄い! まるで、矢を放とうとする者の意を感じ取っているかのよう――
対象は矢を躱して右手に回り込み、距離を詰めていた秋葉ちゃんがここぞとばかりに「ウォオオオーッ」と叫んで飛んだ。
飛翔体の上のものの具に取り付く。
「ほう、新手とみえる。……おッ、もしかして、お前は三女筆頭の紫波家の姫か」
秋葉ちゃんを背負った対象は余裕ありげに言った。
思い返したように続ける。
「お前だよなぁ、私の人形を落とした奴は」
その言葉を無視し、秋葉ちゃんは「春菜の仇!」と叫んだ。手にした鎧通しを対象の脇の下に突き刺した。
「フフッ、そんなもので私を殺れるとでも思っているのか」
対象は不敵に笑い、鎧通しを突き刺した腕ごと引き抜こうとする。
その時、大きな衝撃とともに夏海ちゃんが乗り移って来た。秋葉ちゃんの腕を掴んだ対象の手を外し「アキ、首を!」と叫ぶ。
秋葉ちゃんは脇の下から鎧通しを引き抜き、兜に腕を回して引き寄せた。
その切っ先を首に突き刺す。
半分程切り落としたところで、対象のものの具は動きを止めた。
「どうだ。仕留めたか」
距離を取っていた貞任様が問いかけてくる。
「ものの具はやりましたが、中身は逃げました」
秋葉ちゃんが悔しそうに返す。
「ほう、室を使わずとも脱げるとは―― さすがに山神ともなれば違うものだなぁ」
貞任様は感心するかのように口にすると、飛翔体から陽馬に飛び移って敵を追いかけようとする二人を止めた。
「待て、秋葉。あの妖かしは足が速い。余程近くに行かねば気配も掴めぬ故無理だ」
「ですが、貞任様!」
夏海ちゃんは地団駄を踏むかのように返した。息絶えたものの具を乗せて東へ飛び去る飛翔体を目で追う。
「まぁ、少しばかり待て」と、貞任様は不敵な笑みを浮かべた。
その時だった。御厨から放たれた大きな光の線が沙夜先輩や貞任様、居並ぶものの具たちの中を突き抜けて行く。
「い、今のはッ!」
沙夜先輩の傍らにいた将門様が慌てた声を発した。全てのものの具が大きな光が突き抜けた遙か彼方へ目を凝らす。
「――本来の力を取り戻しつつある山神です」
沙夜先輩は冷静に返した。
スタッフの声が響く。
「さすがだねアキちゃん。添い人さんと上手くやってる」
一人ほくそ笑んだ。
接触して僅か十分程で沙夜先輩と秋葉ちゃんが二体の敵を倒し、すぐに貞任様たちが合流した。残った三騎の敵を数で沖合へと押していく。
「行平、義平、夏海。重矢を放つ故、上手く逃げろよ!」
手はずどおりに敵を陸から離したところで貞任様が重矢を放つ。
放った重矢はアラバマで放たれたものの数倍の威力があり、傍らにいた夏菜ちゃんと数騎がその衝撃波で飛ばされた。
夏海ちゃん等三騎の他、異様に動きが早い敵の一騎がかろうじて躱し、直撃を受けた敵の二騎が吹き飛ばされて跡形もない。数キロ先を飛翔体だけが東へ向けて飛び去って行く。
「貞任様、躱したあの一騎は他のものとは動きが違います」
「ほう、良く視ていてくれたな美波。ならば、この貞任が相手をしよう」
残った一騎を追って貞任様が駆け出すと、慌てて夏菜ちゃんが後を追った。
それを見た秋葉ちゃんと夏海ちゃんが沙夜先輩に顔を向ける。了承を得て同じように駆け出して行く。
夏菜ちゃんから画が送られてくると、後ろ手に結った髪を靡かせて駆ける貞任様のものの具がモニタに映し出された。
その画からは、まるで映画のワンシーンを撮ろうとするカメラマンかのような意図が感じ取れた。
「まったく、女子共は置かれた状況を分かっとらん。と言うか、余裕があるというか――」
道真様が呆れ顔をモニタに向けている。
夏菜ちゃんの必死さが伝わっていた。傍らの塔子さんのモニタを見つめる顔が物語っている。
若い夏菜ちゃんは御厨の女たちの期待を一身に背負って必死なのだ。それだけ貞任様の履くものの具の姿は美しく死に向かうかのような悲しみすら漂わせ、女心を、母性を切なくも締め付けてくる。
神の領域か――
思わず口にした。
その貞任様が秋葉ちゃんたちが追って来たことに気付く。
「どうした、夏海。助っ人か」
「私があれを追っていました。太刀を浴びせて躱された時『あの時のお嬢さんか』と言う声が聞こえました」
「もしや、春菜を」
「はい、間違いありません。私たちにやらせてください」
「お願いします」秋葉ちゃんも続いた。
「分かった。春菜の仇、三女のお前たちでケリを付けろ。――夏菜、お前は私から離れるな」
貞任様は速度を緩めて二人を先行させた。
「アキ、私は援護に回る。ハルの大親友だったあなたがやりなさい。秋葉として泣いてあげられなかった分、思いっきり!」
「――承知ッ」
秋葉ちゃんはそう言い残し、対象に向かって全力で駆け出して行く。しかし先程の相手とは違い秋葉ちゃんでも近付けないほどに動きが速い。
「アキ、矢で足を緩めるから右手に的を絞って!」
回り込んでいた夏海ちゃんが叫んだ。
「彼奴に矢は効かない」
「そいつは異常なほどに矜持が高い。一々矢を躱す」
夏海ちゃんは間髪を入れずに矢を放った。
予想どおりだった。
凄い! まるで、矢を放とうとする者の意を感じ取っているかのよう――
対象は矢を躱して右手に回り込み、距離を詰めていた秋葉ちゃんがここぞとばかりに「ウォオオオーッ」と叫んで飛んだ。
飛翔体の上のものの具に取り付く。
「ほう、新手とみえる。……おッ、もしかして、お前は三女筆頭の紫波家の姫か」
秋葉ちゃんを背負った対象は余裕ありげに言った。
思い返したように続ける。
「お前だよなぁ、私の人形を落とした奴は」
その言葉を無視し、秋葉ちゃんは「春菜の仇!」と叫んだ。手にした鎧通しを対象の脇の下に突き刺した。
「フフッ、そんなもので私を殺れるとでも思っているのか」
対象は不敵に笑い、鎧通しを突き刺した腕ごと引き抜こうとする。
その時、大きな衝撃とともに夏海ちゃんが乗り移って来た。秋葉ちゃんの腕を掴んだ対象の手を外し「アキ、首を!」と叫ぶ。
秋葉ちゃんは脇の下から鎧通しを引き抜き、兜に腕を回して引き寄せた。
その切っ先を首に突き刺す。
半分程切り落としたところで、対象のものの具は動きを止めた。
「どうだ。仕留めたか」
距離を取っていた貞任様が問いかけてくる。
「ものの具はやりましたが、中身は逃げました」
秋葉ちゃんが悔しそうに返す。
「ほう、室を使わずとも脱げるとは―― さすがに山神ともなれば違うものだなぁ」
貞任様は感心するかのように口にすると、飛翔体から陽馬に飛び移って敵を追いかけようとする二人を止めた。
「待て、秋葉。あの妖かしは足が速い。余程近くに行かねば気配も掴めぬ故無理だ」
「ですが、貞任様!」
夏海ちゃんは地団駄を踏むかのように返した。息絶えたものの具を乗せて東へ飛び去る飛翔体を目で追う。
「まぁ、少しばかり待て」と、貞任様は不敵な笑みを浮かべた。
その時だった。御厨から放たれた大きな光の線が沙夜先輩や貞任様、居並ぶものの具たちの中を突き抜けて行く。
「い、今のはッ!」
沙夜先輩の傍らにいた将門様が慌てた声を発した。全てのものの具が大きな光が突き抜けた遙か彼方へ目を凝らす。
「――本来の力を取り戻しつつある山神です」
沙夜先輩は冷静に返した。