第51話 登山のススメ

文字数 3,198文字




登山と聞くと「えっぇー、疲れるし、大変だし、やってらんないよぉ~」と思う人もいるだろうし、拙者としても登る前はそう思うから生姜ないという風に思う。しかし、ながら、それでは勿体ない、貴重な大地との触れ合い体験をみすみす、ウィルス・ミスすることにもなりかねない。よって、今回の登山体験を記し、ハードルをことごとく下げたい所存である。

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拙者と友人の磨耗田君は14時に札幌市近郊の登山口に集合した。到着すると、磨耗田君はセイコーマートのおむすびを食しておった。内心、「なんと緊張感のない奴よぉ、」と罵ったが、彼は彼、拙者は拙者、である。ふと磨耗田君の服装を見ると、彼は半袖、半ズボンの出で立ちであった。内心「登山舐めとるんかぁ、餓鬼ゃぁぁ」という心境になったが、彼は彼だ。

まず、登り始めて、多種多様なお地蔵さん達が拙者達を見送ってくれた。「気をつけるんだよ」「達者でなぁ」「悪いことは続くぞ」とか様々な、声をかけてくれるお地蔵さん。手を振って別れた。磨耗田君と最近読んだSF小説の話で盛り上がりつつ登っていくと、磨耗田君の足にロープが引っかかった。危うく、コケそうになった磨耗田君。しかし、簡単に倒れる磨耗田君ではない。彼は、元々陸上部。華麗なステップで体勢を立て直し、直後に側転。「ふぅ、危なかった。こんな所にロープかよ。」と磨耗田君。小説の題名みたいな台詞。拙者も「この山、何か妙な感じがしますねぇ?」と乗る。

20分ほど歩き、疲れたので、休憩を取ることにした。水を飲んだ。ふと、磨耗田君を見ると、なんとコカコーラ。内心、「おのれぇ~、山をなんと心得るか、クン畜生がぁ」という気分になったが、彼は彼で、「ゲッっっ」とゲップを吐いた。歩行を再開すると、大量の虫が襲いかかってきた。「ブーン」と一斉に群がり「血ぃ吸うたろか」という気概を感じる。「ち、畜生」と対抗する我ら。木の枝をビームサーベル、いや、ウッドサーベルと名付け、振り回す。しかし、打率は1割2分5厘。イチローの打率には到底及ばない。なお、猛攻を仕掛ける虫達に我らは止むを得ず、退却を選んだ。

颯爽と登山道を駆け抜けて、中腹まで来ると、そこにはネズミの群れが待っていた。ネズミ達が襲いかかって来る。拙者達、ガード、ガード。「必殺前歯」の攻撃力が思いの外、強い。磨耗田君をちらりと見ると、少しずつ体力が磨耗しているようだ。これはまずい。と思った時、磨耗田君が動いた。「よけてて!」と叫び、ネズミ達の中央へ。ウッドサーベルを天に向け呪文を唱えた。「ナニカイカズチテキナモノ」と聞き取れない英語か何かを叫んだ瞬間、ネズミ達に空から雷のようなモノが落ち、ネズミ達、軽く感電。ネズミの親玉が「お、覚えてヤガレっ」と言って退散した。

「すごいね。ありがとう」と、磨耗田君にお礼を言うと、彼は「いや、昔剣道部だったから」と謙遜した。さらに登っていくと、大型のクマが仁王立ちで立っていた。「・・・。ぼ、僕にいかせてくれない?」と磨耗田君。「任せた」と拙者が言うと、前へ。クマが「お前らかぁ?招かれざる客はよぉお?子供達がいるんだ。大人しく帰んな?そもないと・・・。」クマは一直線に磨耗田君の前へ、ジャブ、ジャブ、と繰り出した。恐らく経験者である。動きに無駄がない。磨耗田君、スウェーで避け、サイドステップでクマの横へ移動し、ストレート。クマの左頬へクリーンヒット。クマ倒れる。「やっったか」

しかし、起き上がるクマ。「ふふっふふ。いいモン持ってんじゃねえか」


ヤバイ。体格差がありすぎる。クマが上を指差し、「アレを見てみろよ」と囁いた。磨耗田君は釣られて上を見た。その瞬間、クマのアッパーが磨耗田君の顎を直撃。磨耗田君がうずくまり倒れた。「ま、磨耗田君」と駆けつけようとしたが、クマが立ちはだかる。まずい。このままだと、二人ともやられる。そう判断した拙者はまずは冷静になることとした。まず、110番だ。「あっ、すみません。円山中腹なんですが、はい、円山227m地点にドクターヘリでお願いします」と、最低限の仕事をした。続いて、磨耗田君の家族にTEL。「お久しぶりです~。はい。そうですね。正月以来ですね。元気ですか。はい。ちょっと、守君、体調崩してまして、はい。少し入院するかもしれなくてぇ~、その報告です。でも大丈夫です。私が付いてますから」と伝え終話。ちょうどその時、ヘリコプターが頭上から降りてきて、磨耗田君を連れて行った。ロープで吊るしているだけなので、けっこうずさんな運び方だなぁと思った。

さぁ、闘わなくてはいけない。リュックの中を見て、武器を探した。爪切りがあった。少し心許ないが、爪切りを装備し、「待たせたな!」と言うとクマは「相当待ったぜ?大丈夫?物語的に」と言った。「大丈夫さ」と地面を蹴り、右ストレートと見せかけて、左ストレート。かわすクマ、拙者の左腕を掴み、一本背負い。地面に叩きつけられた。「っ10、柔道もやってたんすか・・・」と聞くと、「昔ね。」と答えた。すかさずクマが馬乗りになり、拙者の身体中を引っ掻き始めた。ま、まずい。しかし冷静に考えると、拙者アトピーであるから、ちょうど痒い所がけっこうあって、手間が省けた。ああ、気持ちええええ。でも、ちょっと痛い。あ、爪が伸びてるなぁ、ということで「爪切っていい?」と聞くと「あ、いいよ。ちょうど毛繕いする時、子供が痛そうだから」とのこと。全爪を切り終わったところで、「もう用済みだぜぇ?」とクマが顔面を全力で殴り始めた。「ドスっ、ドスっ!」イテテてテ。

親にも殴られたことが、なかった。こんなに痛いのか。言葉の暴力も痛いが、これも痛い・・。今までの人生が走馬灯のように思い出される・・・その少し前に、股間を蹴った。よろけて、後ずさるクマ。そこで青空を見上げた。青空の中に一点の黒。何かが降りてきている。どんどん大きくなる黒。スタッ、と地面に降り立った、その黒は地面で一瞬、よろけた。そう、その黒の正体は・・・。ジャッッジャジャーン。磨耗田君でーす。少し前に、緊急病院で治療を終えた、磨耗田君は、「ドクターヘリで帰らせて」と駄々を捏ね、「じゃないと、この病院に立てこもっちゃうよ?」と脅し、脅迫罪で逮捕、その後留置場で知り合ったヘリコプター操縦士と共に、監視員に賄賂を渡し脱出、なんとかここまで辿り着いたのである。


「お待たせ」と磨耗田君。必殺技の「コチョコチョ子ちょ」を繰り出すと「うひょひょひょひょ、やめたまえ」と笑うクマ、地面を3回叩き、ギブアップ。「もう悪さしない?」と磨耗田君が聞き、「はい」と半べそ状態で答え、帰山するクマの背中は、哀愁に満ち満ちていた。こうして、なんとか敵たちを退け、山頂に辿り着いた我ら。山頂で火を起こし、リュックから鍋を取り出し、キムチ鍋。煮立つまで、暇なので、ウーバーイーツでスープカレー、ビール、スパークリングワインを注文し、到着までポーカー、ブラックジャックをプレイ。バカラを始めようとした所、ウーバーがヘリコプターで到着したが、値段が高いとクレーム、殴り合いの末訴訟で敗訴。酒池肉林を楽しみながら乾杯。といった流れで、全てのご馳走を平らげ、「大変だったけど、いい登山だったね」と磨耗田君。互いの健闘を称え合い、握手、涙ながらに下山した。

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・・・というイメージを膨らませてから、実際に山へ登ってみたのだが、そのイメージよりは、比較的スムーズに登れて、適度な運動ができた。さらに自然との触れ合い、通り過ぎる人との挨拶で心が洗われた。もし苦手意識がある方は、とことんまで厳しいイメージを膨らませてからの登山をお勧めします。この長駄文に耐えられた方は登山の素質あり。と思いますよ。
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