第42話 趣味について
文字数 1,293文字
この日本という国において簡単に「趣味はなんですか?」と聞いてしまうと、不穏な空気になることがある。人によっては趣味なんて聞いてくるんじゃないわよ。という方や、「うーん。趣味ないんですよね」という方もいる。
先日、会食をさせていただいた折、何気なく質問してしまった私にも勿論、非がないわけでは非ず。そこは謙虚な姿勢で臨みたい。
私も聞き方を工夫し、「普段、御在宅の際や、御外出の際はどのようなお時間のお過ごし方を好んでございますの?」といったような、お上品かつ回りくどい質問をしておけば、良かったかもしれぬ。
恐らく、人によってはどの程度までやれば趣味と呼んでいいのか皆目検討がつかず、さらに日本人の謙虚さがその基準を厳しくしているのではなかろうか。
確かに趣味についての明確な線は、日本国憲法は勿論、大日本帝國憲法にも明記されていない。よって、それがこの現象を現実のものにしているんちゃう?ということで早速ググった。ところ、
1、自由時間に好んで習慣的に行う行為、事柄、対象。
2、物の持つ味わい・おもむき、そしてそれを鑑賞しうる能力。
3、熱中している、カテゴリーのこと。
と出てきた。1と3は意味としては似ている。2は「ああ貴方そのワンピース、趣味がいいですねぇ。」というやつだ。なるほろ。やはりそういうことか。数点気づいたことを申し上げる許可をくれないか?いい?申し上げていい?
まず、趣味を聞かれた場合、何を答えても正解になるという点だ。趣味を聞かれ、咄嗟に「洗剤です」と答えたとしよう。その場合、質問者が「せ、せ、洗剤!それはまた独特の趣味ですな~」などと口走った場合、その瞬間勝ちです。
先方は趣味という言葉を1、3の意味でしか理解しておらず、すなわち愚鈍ということになる。その場合「いえ、私はただ単に洗剤を鑑賞してるのです。独特の形状、色彩、香がなんとも言えんのですよ」と勝者らしい対応をしてあげよう。ここから導き出されるように、全ての事物が趣味の対象になり得るのである。
もう一つは、その趣味の線はとことん甘くしても構わないという点だ。例えば、引きこもりの阿呆田君。彼は4ヶ月に3回ほど散歩に出かけたくなる。その上で散歩に出た時、自分の肥満した腹と、微妙な色彩を放つ乳首にとてもイライラし、つい道端の石ころを蹴飛ばしてしまう。それを散歩のたびに行う。となると阿呆田君の趣味は「部屋、散歩、蹴石」となる。それぞれ、条件と一致しており、立派に趣味の範疇に収まっている。
このように趣味はなんでもなく、しょーもない規定で問題なし。何も誇らしいものでもない。
な、なるほど!だからお上品な皆様は答えたくないのか。と、今更ながら気付いた。愚鈍である。もしそうであるならば、確かにわざわざ答える必要もない。質問者を困らせるため「歯ブラシ」や「トウキビ」「天皇」などといった答えを用意しておくのも効果的だ。
もしくは、それすらも面倒である場合、名刺にあらかじめ「※趣味の質問する奴、マジでキめぇ」などと明記しておけば、完璧だ。
このように趣味との向き合い方はそれぞれですし、わざわざ向き合わずともよろしいでしょう。