第8話 価値の変遷
文字数 586文字
2021/03/15
街に繰り出したので、久しぶりに顔見知りのビデオ屋さんに顔を出そうと閃いた。
映画や大人のDVDを貸し出すその店の店主とは以前のアルバイトで知り合った。訪ね
た際に色々と話しかけてくれたのであった。
最後に会ったのは昨年秋。「もうそろそろこの店も辞めようと思う。お客さんも減ってるし。」と深刻そうに話していた。「今じゃ、ネットで映画なんて見放題で観れるんでしょ?」といかにも苦々しく恨み節を口ずさんでいた。その問いに「そ、そうみたいですね」とお茶を濁した私はそう、その見放題で映画を観れるネットサービスを有料契約していたからだった。悪いことをしているわけではないが、若干の罪悪感を感じつつ、帰宅した。
あれから半年ほど経ち、今回お店を訪ねた所、あの時の悲壮感は何処へやら、晴ればれとした顔で迎えてくれた店主は「お店は夏で閉めることになった」と話してくれた。「まぁなんとかなるよね」と言いつつ、オススメの映画等を教えてくれた店主は「今はネットの映画見放題を有料契約しててさーー、すごいよね、あれ!娘も喜んでるよ。」私はズッコケつつ驚き、「そ、そうなんですね。実はボクも契約してました。」と正直に話して何やら色々な意味でホッとしたのであった。時代は移り変わる。サービスも人の心も移り変わる。その時々で変化しつつ、それぞれ、なんとかその瞬間を楽しみつつ生きていきたい。