第38話 何を信じるか

文字数 775文字



札幌近郊のスーパー銭湯に行った。少し天然の友人の行きつけであるらしいので、共に向かった。湯船に入るとアトピーの皮膚にピリピリと来る。少し痛い。同じアトピーである友人は「痛いでしょ?これ源泉かけ流しの温泉だから!」とピリピリ来ることが効いている証であるように叫ぶ。我慢して入っているとだんだんと痛みが和らぎ、気持ち良くなってきた。なるほろ。温泉が効いてきたようだ。アトピーの肌が少しずつ癒されている気分がしてきた。ああ、気持ちええ。

水風呂と温泉を何往復もして、明日から肌の調子もええなぁと考えつつ、外の露天風呂で身体を涼ませていた。すると、露天風呂に浸かる常連客が話を始めた。「ここ、なんか温泉じゃなくなってきたよね?」「あ!なんか、ここ沸かし湯らしいよ?」「そうなの?」「うん。スタッフが言ってた」「確かに、前はもっとオレンジ色の成分出てたもんね」「ねぇ~」

・・・・・。耳を塞ぎたい気分であった。現実を直視できず、すぐさま温泉もどきに戻り、浸かった。目の前では温泉と信じ込む友人が気持ちよさそうに温泉もどきに浸かっている。彼には言えない。しかし 、改めて考えると情報源は一つずつ。どちらが正解かは、分からない。やや、常連客の方が信憑性は高い。しかし、・・・・・・。

今の時代、沢山の情報が溢れている。人間は信じたい方を信じ、それを真実だと思い込んでしまう節がある。それは必ずしも良くはないし、自分の幅の中でしか世界を見れなくなってしまう部分もある。しかし、時と場合によって、信じたい方を信じて良い時だってあるのではないだろうか。誰にも迷惑がかからず、勝手に幸福を味わう場合である。

帰りの車の中で、私は友人に「いやー、温泉気持ち良かったねぇ!」と伝え、友人は「ね!よかった」と、微笑み合い、その車の中は幸福な気持ちに包まれ、車窓からは秋の風が流れ込んだ。
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