第32話 走れナオス

文字数 1,549文字




ナオスは激怒した。必ずかの痛快無比なオリンピックを視聴せねばならぬと決意した。ここは札幌市東区役所前。時間は17:40。18時から始まるサッカーオリンピック日本代表の試合を必ず視聴せねばならない。今日はそのために札幌市大通りにあるホテルに宿泊する予定だ。しかし、地下鉄には乗りたくない。人混みが嫌いなナオスは人混みを回避したい。しかし、ポロクル(レンタル自転車)はもうあきた。おばあちゃん子で育ったナオスはワガママである。しかし、タクシーにも乗りたくない。貧乏性でもある。ならば走るしかないだろう。

ナオスは走った。ホーマックやデポを横切り、高架下を越え、時に信号を待ち、時に全力疾走をした。ナオスは久しぶりに街中を激走することに快感を感じていた。今日は午前中からビリヤード、卓球、午後からサッカーと非常に多忙であった。スポーツは素晴らしい。人間の発明の中でも、完全に素晴らしいのはエンターテイメント(スポーツを含む)だけなのではないだろうか。例えば、電気は非常に便利であるが、それにより余計な労働や資源が必要になる。しかし、スポーツはそれに打ち込む2人以上の人間と道具さえあれば良い。ナオスは創生川通りの歩道橋を疾走しながら札幌の素晴らしい街並みを眺めた。

ここで、マラソンを走る選手がいるのか。ナオスは感慨深い気分になった。走る喜びを久しぶりに味わった。大通り公演を通り過ぎる時、沢山のストリート少年少女がスケボーをしたり、リフティングをしたりギターの弾き語りをしたりしていた。良い空間だなぁと思った。走って通りすぎる時、弾き語りの少年の声は小さく、全然聞こえなかった。しかし、5丁目から6丁目へ移動する間に少しずつ少年の声も大きくなっていった。覚悟を決めたのだろう。40分後、ナオスはホテルに到着し、チェックインを済ませ、部屋に入った。サッカー日本代表の試合はすでに始まっていた。しかし、色々なスポーツで頑張る人々を見て、私は少なからず影響を受けている。故に、ただただサッカーを見ていることはできない。この間にもトレーニングに励まねばならない。私は部屋のドアの前で倒立を始めた。

三点倒立はマスターしつつあるが、倒立はまだである。練習をせねばならない。昔から歳を取ると身体が衰え、運動神経が悪くなるということを信じてきた。何故だかは分からないが。そうだと信じ切っていた。しかし、最近はそうは思わない。(日々鍛錬しているプロの選手や日々怠惰し太っていく人は別だ)今、人生で1番身体が柔らかく、昔出来なかった倒立が出来るようになってきている。くだらないことかもしれない。しょーもないことかもしれない。しかし、僕たちは死ぬまで成長できるはずなのだ。勉強、運動、精神、どれか一つだけでも良いのだ。

ナオスはそんなことを考えながら、サッカー日本代表の試合を見終わった。1番感動したのは、相手国であるニュージーランドの2番目のPKを外した選手をキャプテンであるウッド選手が頭を掻きむしり、肩を叩き、励ました所だ。「大丈夫だ。キーパーが止めてくれる。心配するな。」そんなメッセージを感じた。何故、私たちは自分の国を応援するのだろう。同じ地球に住んでいる人間が線を引いて、分けられるのだろう。普段の電車の中や、エレベーターの中で他人に優しくできないボクらはそれでもスポーツで自分の国の代表として頑張る他人のことは応援できるのだろう。不思議だが、それが人間だ。それがボクも含めた人間だ。ナオスは涙を噛み締めながら、素晴らしい試合をしてくれたニュージーランド、日本、両国に感謝をした。その後、韓国のお酒チャミスルを飲みつつ、明日の朝5時からのアルバイトに備え、早寝をせねばならない。吾輩は人である。我々はただの人である。
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