第44話 背景、ボクシングジムにて(後編)

文字数 1,021文字




以前、ボクシングジムに体験に行ったという文章を書いた。これは、その後編である。

まず、ボクシングジム(以下BC)に降り立ち、ストレッチから始まった。様々な角度に身体を曲げたり、折ったりしつつ身体をほぐしていく。そして、この後、洗礼を受けることとなる。それは、縄跳びでござる。

拙者、運動神経は中の上。いや、上の下。自信はあった。縄跳びなんて、ふっふっふっふ。笑わせてくれる。そんなガキの遣いやアルマーニ、私にジャンプさせるとは、ボクシングも所詮、子供騙しかいな?

といった、調子乗りたまトッピング状態で縄跳びに挑んだ。すると、もうむずいのなんのって、できへんできへん。もう大変でございまして、ダサいハズいショボいの三本柱で、穴があったら入りたいし、サンドバックがあるなら中に隠れたいというような、飛べない鳥の気持ちがよく分かるような。ひとまず、ゆずの「飛べない鳥」という曲を脳内リピートしつつ、再ジャンプするも何も変わらず、まったく「飛べない人」。

横を見ると友人の遠山。楽々と縄跳びをこなしていた。くそー。これでは、拙者がトーシローの扱いを受け、先輩たちから、「あいつ運動神経ゴミじゃね?」だとか、「は?縄跳びもできねーで、BC来てる奴、初見見」とか悪口を言われる可能性が頭をよぎった。その後も遠山はミスる気配なし。3分の縄跳びでは基礎力において、雲泥の差を露呈しつつ終了。

しかし、インストラクターは優しく、私の縄跳びの下手さに言及することなく、次の種目へ進むことと相成りました。(ほっっっ)

つづいて、ジャブ、ストレート、ワンツーといったようなパンチを繰り出す練習。縄跳びの汚名返上とばかりに意気込みました。鏡に向かって、ひたすら空気を殴る。殴る。殴る。「今から、一緒に殴りに行こうか?」と自分に問いかける。その後、サンドバックを殴り、インストラクターの手を殴り、体験を終えた。非常に楽しい時間だった。

何故、人は殴りたくなるのだろう。それは、きっと日々殴られているからだ。生きていると理不尽なことが多い。終わらない仕事、現れない恋人、懐に飛び込んでこない大金、使えない魔法、食べ過ぎると膨れるお腹、そんな厳しい現実社会をボク達は生きている。

しかし、自暴自棄で事件を起こしてはいけない。酒で誤魔化してはいけない。そんな時こそBCだ。そこで現実を殴るのだ。いつだってBCは貴方のパンチを待っている。さあ、今から一緒に、このまま一緒に、殴りに行かないか?
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