第52話 ズル早退のち諸々ゆえ説教

文字数 1,832文字




派遣社員として労働に励んでおる。ただ、先日はズル早退をさせていただくつもりでいた。それが、思いもよらない結果になってしもうたという話である。

まず何故、早退をしようとしたか。その日は友人達と音楽スタジオに入る予定をしており、洋楽の曲でもやりますか!と、意気込み、ついでにパークゴルフでもやりますか?と、それぞれが胸を躍らせていたからじゃ。

よって、お仕事をしてしまうと、歌を歌ったり楽器を奏でるといったエネルギーを捻出することは疎か、音楽スタジオに向かう途中で挫折さえしてしまいかねない。

それ故に、拙者は職場で、マネージャーらしき人にこう申した。

「お疲れ様です。日々、勤労にご奉仕し、誠に敬意を表したい。無論、感謝も。しかし、間者、即ちスパイではなかろうお互いの立場に準じて、ひとつ、お願いが存じます。それは、何か、と申しますと、明日の午後、早退をさせていただきたいという所存であるという、拙者の気持ちを汲んではもらえんじゃろか?」

と、非常に端的に、かつストレートに申したところ、マネージャーらしき人はこう言った。

「なんで?」

不届き者!と拙者は心中で喝を入れた。マネージャーたる者、部下が恥ずかしくも伝えた言霊、即ち、お願いを無下にする者であらず!

しかし、そんなことを言っても仕様がないので、急に片目をパチクリと瞬きをし、
「ちょっと左目の調子が悪い故、眼科に行きたい所存でござる。この状態では、戦すらできる状態ではない故、放置しておくと、ゆくゆくはマネージャー陣にまで何かしらの悪影響が及びかねない」と告げた。

「よかろう」

マネージャーは言った。ふぅ、第一関門は突破である。しかし、拙者も社会人の端くれ。責任感というモノも人一倍備わっておる。今日は残業でも行い、明日の諸君の負担を少しでも軽減しておこう。ということで、通常よりも2時間半残業をし、買い物をして帰った。

帰宅し、テレビジョンを付けた所、野球中継がいつもより2時間ほど延長をしていたこともあり、いつも通りの時間が経過している錯覚に襲われた。

あれ?今日残業したの幻だったんや。と急に視界が開け、普段通りドラマ、バラエティ、麻雀ゲームという不毛な時間を過ごし、寝た。ところが、これがトリガーとなり、拙者の顳顬に拳銃を突き付けることとなる。なんと、就寝時間は3時を越えておったのじゃ。

プルルルルルルル、プルルルルルルル、という電子音が部屋中を満たした。ふと、跳ね起き、時計を見ると10時。出勤時間の8時50分をとうに過ぎておる。はてさて、困った。これは困った。しかし、時間は戻らぬ。もう一度寝ようか?否、それはただの現実逃避に他ならない。と、決心し、電話を取った。

「もしもし、拙者、大変腋が甘く、ただいま起床するに至った。よって今から出勤をしようということを念頭に入れ、準備をしようとしていた。しかし、ふと昨日のことを思い出したところ、本日は午後から早退の予定をしていた。つまり、このまま出社したとしても小一時間しか戦はできぬ。よって、恐れ入りますが、本日の戦はなかったことにしていただきたい」

と、非常に端的に、かつスマートに、これ以上ない弁解を告げたところ、担当者は、明らかにこちらを馬鹿にしたような態度で、こう申した。

「そう伝えて大丈夫なんですね?」

「かまわぬ」

と告げ、切電した。

こうして、本日は突然休日に切り替わった。せっかくなので拙者としては午前中も楽しみたい気分になり、朝カラオケに繰り出し、お昼過ぎから友人達と合流、パークゴルフ、音楽スタジオ、びっくりドンキーという流れで、その日は豪遊した。

しかし、その日の夜、同期であり同志である早乙女氏から伝書鳩が届き、

「マネージャー、お怒り」

と記載あり。

非常に暗鬱とした心持ちで、翌日、出社したところ、マネージャーは腕組み状態で君臨し、明らかに不機嫌そうであった。拙者としても昨日の爪の甘さを憂いではおったので、恐る恐る声をかけた。

「マネージャー、昨日は本当にすみませんでした。」

そこから小一時間、説教をされた。途中、対抗策として、昨日購入していた演技用の目薬を使った。これにより、涙を流すほどの猛省、さらには通院するほどの眼の症状の悪化、を訴えたが、マネージャーらしき人には伝わらず、その日は、一日中無視をされ辛い時間を過ごした。

よって、今後は適度に言い訳や建前といった方言を駆使し、こういった危機的状況を潜り抜ける術を身に付けねばならぬ、と決心した所存である。
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