第30話 UFO 現代の聖杯 エイリアン・リバースエンジニアリング

文字数 7,865文字



二〇二五年五月一日 木曜日 午前零時

魔術師アイスター・ニューブライト

 イーストハーレム百十六丁目にあるアパートメントの五階、アイスター・ニューブライトの自室が、彼らの即席のアジトになった。
「ここもそう長くないだろう」
 カーテンの隙間から外の様子を伺いながら、アイスターは外を走るパトカーの赤いランプを見下ろしている。無事、大学の研究所を脱出したものの、今後の見通しは立たない。
「で――あんた方は?」
 と、部屋の方へ振り向いて、ハスキーヴォイスで尋ねた。
「このNYの謎と秘密と戦ってるの、ネー!! あたしたち!」
 かをるはハリエットの肩を抱いて、頭を傾げた。ハリエットはニコニコしている。
「……なんだそりゃ? 君、ずいぶん派手な格好だね」
 アイスターはかをるのパンクファッションをジロジロ見つめた。
「このコ、NYでアブダクションされた被害者なのよ」
 エスメラルダが簡素に説明した。
「アーそいつは難儀だったな」
「私の取材対象になってもらう予定」
「やぁ、ZZCの生けバービーことエスメラルダ・ガルシアじゃないか、よく見りゃ! こいつはサイコーにクールだ」
「まぁ運命に導かれて集まったってトコ。経歴はみんなバラバラ」
 スーが腕を組んだ。
「彼女、ハッカーだよ」
 今度はかをるがスーを紹介した。
「もしかしてアンタ、<モナ・リザ>か? やっと会えたな」
 スーは微笑んで頷く。
「ちょっと待った、さっきからその鳩って……君がひょっとして、ハリエット・ヴァレリアン!? ロック市長の娘の?」
 ハリエットの肩には、依然鳩が止まっていた。
「ええ……初めまして」
「このリアクション、何度目なの?」
 スーは、肩をすぼめる。
「あなたもでしょ」
 エスメラルダも微笑む。
 アイスターは、巨漢のマックとエイジャックスをジロッと観て、
「……オイオイいかついな! ホントは俺を逮捕しようとしにきたんじゃあるまいナ!?」
「ま、企業からの情報持ち出しは大した犯罪だが」
 マンハッタンホーンに潜入し、不法捜査をしていたエイジャックスも人のこととは言えなかった。
「……お巡りさんなの!?」
 アイスターは首をゆっくり横に振った。
「紹介するわ。彼はエイジャックス刑事、こっちの軍人はマクファーレンよ」
 エスメラルダが右手でそれぞれを示す。
「……元だ」
「俺も」
「はぐれ刑事(でか)ニキとアウトロー軍人ニキのセット」
 スーが茶化した。
「心配すんな、味方だ」
 エイジャックスは笑って、アイスターの肩をポンと叩いた。
「やれやれ、大学の研究所が吹っ飛んじゃったワ! 貴重な研究成果が、何もかも、資料と共に!」
 エスメラルダが嘆いて、エイジャックスがマックをじろっと睨んだ。大学を破壊したのは、何もスクランブラーや青い光のせいだけではなかった。それ以外は、大体マックの仕業だ。
「もう――何も残ってないの? 魔術師さん」
 ヴィッキー・スーが顔を上げた。
「いやマサカね、コレさえありゃ……いつでもゼロからやり直せるさ!」
 アイスターはニヤリとし、ベッド上にカバンを置くと、ガバッと開けた。まず目に飛び込んできたのは、縦二十センチ×横三十センチ×高さ十五センチの機械。フリーエネルギーシステム「アクセラトロン」である。その下にマンハッタンホーンとNYユグドラシルの内部情報、技術情報が入ったハードディスクや書類があった。
「こいつがマンハッタンホーンのフリーエネルギー装置、アクセラトロンだ!」
 エネルギーとITをセットで役割を担うアクセラトロンは、水晶とテスラコイルでできているらしく、キラキラと透明な光を帯びていた。
「原理は?」
「コンパクトサイズだがスーパーテスラコイルで、PMFを発生させる。動力源は磁気さ」
 アルフレッド博士が情報をレジスタンスに売ろうとして、マンハッタンホーンから持ち出したものだ。
「PMFってのは?」
 エイジャックスが訊いた。
「サイコ・マグネティック・フォース、この宇宙を有らしめてる力さ。金属の磁気を、所有者の精神波で操る。そういう特殊な金属を、PM(サイキック・メタル)っていうんだ。君のペンダントもそうだろ? その光十字」
 アイスターは、ハティの胸元を指さした。
「えっ」
「戦いのときに見えない壁を作り出してた。物体を押しのけるほど強力な静電気を発生させてな。ポリプロピレンフィルム工場でも時々確認されてる現象だ」
「彼女のペンダントの仕業だってのか?」
「超スピードでな。この俺じゃなきゃ見逃しちゃうね」
 エイジャックスはハティの胸のペンダントから、アクセラトロンに視線を移した。
「まるで『スター・ウォーズ』で、デス・スターの設計図を持っていたR2D2だな」
 劇中、同盟軍が盗み出したデス・スターの設計図を、ドロイドの中に入れて運ぶシーンが登場する。それは、同盟軍の反撃に欠かせない情報となった。
「アルフレッド・ファイン博士とは電波技術者の大会で知り合った。その時何時間か話したんだが、とても一研究員の知識じゃないと感じた。どう考えても、異様なほど知識があったんだ。こっちの世界線では落ちぶれた研究員に過ぎなかったが、もともとの世界線じゃ、軍産複合体の重要な計画にかかわる人物だったんだ」
 アイスターはアルフレッドと直ちに意気投合した。
「『マンハッタンホーン、そこで恐ろしいことが行われている!』、アルはそう言い残して死んだ。彼の死後、コロンビア大の俺がひそかに受け継いだ。で、研究を始めてすぐ、この装置を開発した」
 謎の事故死を遂げたアルフレッド博士。死の直前、友人にフリーエネルギー装置の設計図を渡した。アイスターは大学でアクセラトロンを一人で研究していた。つまりアイスターが、マンハッタンホーンの中に居たことはない。
「心配しないで。あんたは私たちが守るから」
 スーの発案であったことを、アイスターは知った。
「彼らはあなたみたいな人を必ず狙ってくる……この先、何度でも」
 と、ハリエットはすでに手練れのような言い方をした。この短い時間で、ハリエットは何段階も覚悟が定まっていた。
「ああ――だろうネ」
 途端にどシリアスな顔になって、アイスターはアクセラトロンを起動させた。
「カーテンを締めてくれないか」
 窓際で腕を組んで立つエスメラルダに、アイスターは言った。
 小型発電機から発生した稲妻が部屋の中を照らした。光を発しているが熱はなく、マシンは静かにジリジリと音を立てている。
「それでも俺にはやることがある。アルは宇宙人技術や情報だけでなく、フリーエネルギーを独占しようとするロートリックスのやり方に違和感を抱き、マンハッタンホーンから技術を外へ出そうとした。いや、救い出そうとした。――貧富の差が激しいアメリカで、そして新自由主義という名のグローバル経済の格差社会・植民地政策が全世界に広がっている今だからこそ、ナ」
 アイスターは、まばゆい光を見つめながら、薄明かりの中で云った。
「99%の人類は、1%の人々の奴隷さ。それが帝国だ。帝国は、エネルギー、食糧、医療、教育、軍事……それらを元締めの金融で支配し、大衆に自由を与えない。世界中で起こってる戦争だって軍産複合体の金儲けの道具。第一次世界大戦の頃から変わらない。第二次世界大戦のとき、ドイツに資金提供。そして大戦が起こる。これが戦争屋だ。金持ちが戦争を起こし、貧乏人が死ぬ。それがこの世の掟さ!」
 アイスターが皮肉っぽく嘆いた。
「フリーエネルギーとAIと富裕税を共に導入すれば、現在のゆがんだ金融システムは解体され、世界の貧困は解決する。帝国の支配する格差社会、1%の人々(支配者)は失業する。つまり科学バチカンは崩壊し、パラダイムシフトを迎える」
「コペルニクス的展開ってやつか」
 エイジャックスは、未だ夢物語を聞いているような感覚に陥っていたが、実際に体験してきたことだった。
「あぁ、UFO問題っていうのは、軍事機密だ。エイリアン・リバースエンジニアリングによる宇宙人の技術の軍事利用を隠ぺいし、なおかつ現在の化石燃料などの有限エネルギーの保護政策、イコール、フリーエネルギーの大弾圧。これが軍産複合体の方程式なんだ」

 UFO問題=エイリアン・リバースエンジニアリングの独占・隠ぺい=フリーエネルギーの弾圧

「フリーエネルギー装置はとっくに開発されている。世界中で数多くの科学者たちによって、ずっと前からな。コイツを使えば世界の環境問題は一気に解決する。しかし支配層は技術を独占して表に出さない。だから地球温暖化に歯止めが掛けられない」
「矛盾だね」
 スーも同意見を持っているようだ。
「彼らは環境改善や、真剣な社会改革なんて興味がない。エネルギーは有限でなければならないんだ。他人を支配するために。そこでフリーエネルギーは、エネルギー産業にとっては脅威となる。FBIの強制捜査、大企業特許の警告を受けての発明の断念、そして白服の暗殺部隊が襲ってくる――」
 フリーエネルギー装置「テスラ・コイル」を発明したニコラ・テスラは、彼が亡くなったホテルにFBIが押し入った。連中は部屋の中にあった金庫をこじ開け、設計図や研究書類を持ち去ったのである。
 アイスターがそういうと、エイジャックスが質問した。
「もしそんなのが本当にいるとして、世界を支配してどうするつもりなんだ?」
「あいつらは恐れをベースに君臨している。他人をやたらと恐れ、抑圧しなければならないと思っている。自分らには力がないと思っているんだ。だから他人を支配する。『森の生活』の中で、ソローは言ってる。どんなに些細なことでも、満足できる人が一番裕福なんだ。それが分からん連中は、かわいそうな奴らだ」
「えぇ……そうよね」
 ハリエットは深くうなずいた。
「エイリアン技術って他には?」
「電子レンジや集積回路、光ファイバー、ステルス戦闘機、形状記憶合金、インターネットなど。音の出ないブラックヘリだって、ロートリックス社のエイリアン技術だ。公表されちゃいないがね」
「だろーよ……」
「スクランブラーにマンハッタンホーン、それにアレだ、NYユグドラシル! あの塔こそがエイリアン・リバースエンジニアリングの結晶さ……。彼らは先端科学のフリをしているが……それぞれがエイリアン技術の成果なんだ。UFOやPMF、最高に進化した科学は、もはや魔術と区別がつかない」
 イーストハーレムにあるアイスターの部屋からも、ガバナーズ島にある高さ一キロメートルの塔の光は小さく見えていた。
「UFOはマッハ9で空を飛ぶ。慣性系を無視して滑空する。UFOが近づくとEMPで電子機器に異常が発生する。その正体はPMFさ。UFOももちろんPM(サイキック・メタル)だ」
「だが地球製のカーゴカルトUFOを見ると、しょっちゅう墜落しているし、結局ブレイクスルーには至ってない」
 マックが口をはさんだ。地球のエイリアン技術は未完成だった。だがアイスターのアクセラトロンは、フリーエネルギー装置の試作機として一つの完成形とみることができた。
「現在の限りあるエネルギー、CO2、地球温暖化は、フリーエネルギーが解決する」
 アイスターの目が光った。
「こいつさえありャあ、貧富の差だって無くなる。病気ももっと簡単に治せるようになるだろうし、二酸化炭素も放射能も出さない、環境破壊も起さないから地球にだって優しい。人口が増えすぎたせいで地球環境が悪化していると考えるが、経済とエネルギー産業を変えれば、百億人でも養えるキャパシティが地球にはある! 地球に人が増えているのはそれなりに理由があるんだ。種としてな」
 フリーエネルギー社会の実現で、パラダイムシフトをもたらすために、二人の科学者は戦った。
「本当に?」
 エイジャックスが胡散臭そうな目を向けた。
「ソースは俺。複雑な社会システムは全部ポイ、おさらばだ。シンプルな世界に変わる、ありていに言ってみんながハッピーになるってワケさ!」
 ハスキーヴォイスで六十年代のヒッピーみたいなことをまくしたてるアイスターは、一見お調子者のように見えるが、その内容はヒッピーよりもちゃんとした、科学的・学問的な論拠に基づいていた。
「――正しく使えばな」
 円筒形の装置の発する青白い光を眺めて、エイジャックスが何気なく釘を刺す。NYユグドラシルの塔内には巨大アクセラトロンがある。これはその小型版だ。為政者や使用する者が正しい使い方をしなければ、フリーエネルギーといえど、NYユグドラシルやプラズマ兵器を搭載した地球製UFO兵器のように、人を殺傷する兵器になりえるのだ。
「NYの天災は影の政府、ロートリックスの戦争ビジネス計画だ。軍産複合体の。民間とはいえ、マンハッタンホーンは厳重で入れない」

 カバンにはUSBメモリが入っていた。アイスターは、摘まみ上げるとノートパソコンに接続した。その内容は、アルフレッド博士から預かったマンハッタンホーン内部から流出した映像(断片)だった。
「これは火星の映像だ……」
「火星? 中東かどこかの砂漠の都市かと思ったぜ」
 アルフレッド・ファイン博士が殺されたのは、これを持ち出したことも理由だった。
「世間に流通している宇宙の写真は嘘っぱちだ。たとえば、こいつはスタジオで撮影された写真……」
 ノートパソコンで、公表された画像と並べて比較する。
「フォトショップの加工の跡が……?」
「――あぁ」
「これなんかモロAIで自動生成された奴だな」
「昔のはフォトショもAIもないから加工の跡がもっと大味だ。NASAが公開している火星の写真なんて、カナダのデヴォン島で撮ったものだよ」
 だからネズミやトカゲや鳥が、火星の表面に映っている。加工の抜けが多く、米軍の昔のヘルメットが転がってる写真もあった。そしてNASAが公表した火星の地形の写真と、デヴォン島の景色が見事に一致していた。
「向こうには約二万人の都市が出来上がっている……。主には地下にな。上の方の権力者の話題で、もうこの星はダメだというグループと、地球に残ろうというグループがあるんだ」
「本当なのか? そんな多くの人間を」
 エイジャックスは怪訝な顔をした。にわかには信じられない。
「火星へは労働者・科学者を半ば強制的に誘拐している。それと支配者が行くんだ」
 マックは、それらの写真を眺めて、眉をひそめた。
「それが世界中の集団消滅事件……」
 エイジャックスは合点がいった。NYでは、イースト・ロウワーマンハッタン地区で起こっている。
「そういうコト。マンハッタンホーン内に――ネオ・マンハッタン計画の研究所が作られ、そこで塔を使用した宇宙人との最終計画が進められている」
 NYに人間牧場を作るにあたって、奴隷たちが支配者に反抗しないように、CIAによって開発されたマインドコントロールを行う。それが、バベルの塔の第一の機能だった。
 白服たちは、コロンビア大にアクセラトロンが渡ったと知って、内偵していた。スーはアイスターをなんとかレジスタンスにつなげないとと思いながら、白服の魔の手が迫っていた。ギリギリのタイミングだった。
「とはいえ、あんたら本気でやるの? とてもじゃないがこの人数じゃ無理だ」
 アイスターは、テーブル席を見回した。
「まだいるはずなのよ、父の協力者たちが。……このNYのどこかに」
「政治家や軍の中に大規模な反乱軍がいるらしい。ヤツらはそれを恐れている」
 アイスターはそういって、あごに手をやった。
「お前の事か?」
 エイジャックスはマックを観た。マックは、ムッとして睨んだ。
「俺も聞いたことがある」
「いや、もっと軍の上層部と政治家たちで構成された、大規模なUFOディスクロージャーチームだ。彼らは、全世界への公表を狙っている。特大ホームランの暴露をな。レジスタンスはこのNYのどこかに隠れている」
「そのディスクロージャーチームって、私の父と何か関係が?」
 ハリエットは訊いた。
「ああ、どうやらあんたの父親は、宇宙人問題についてかなり知っていたようだ」
 マックの話と、かをるとエイジャックスがマンハッタンホーンで観た情報。両者の断片的な情報をつなぎ合わせると、以下のような結論に至る。
「軍産複合体の総本山、ロートリックス本社のマンハッタンホーン。親父さんはマンハッタンホーンに陰謀の根源があると考えていた。国民をグレイ文明に誘拐させておいて、自分たちは宇宙人から技術を手に入れる――だがお父さんが亡くなり、資料を奪われて、そこへの線は断たれたんだ」
 アイスター自身も、ロック市長に希望を抱いていた。
「彼らはもう姿を見せない……このまま、隠れたままか」
 エイジャックスは銃を点検する。
「何とか会えない? アイスター、父の足跡を追って、失われた資料や証拠を全部取り戻すのよ!」
 ハリエットの勘がそう言っていた。全ての資料を失ったハリエットが、父に関する資料を一つ一つ集める戦いだった。その究極の情報源が、アイスターが接触しようとしていたグループなのだ。
「彼らと連絡がつかなくなった。今は、白服や黒服やサツに狙われてる真っただ中だろう」
 アイスターは、エイジャックスの方を向き直る。
「……俺が追ってた、NYに潜伏するテログループはそれだ」
 エイジャックスは追う側だったが、多くはNYPDが到着する前に白服が処刑し、もみ消している。
「その――世界の裏の裏には、全世界を支配する者ってのがいるのか? よみがえるシリウスの光団とか? 都市伝説じゃないだろうな?」
 エイジャックスの問いに、アイスターは首を横に振った。
「詳しいことはディスクロージャーチームに訊くんだな。彼らの方が知っている」
「お前も内部関係者の一人だろ?」
「内部の人間だからってすべて知ってる訳じゃない。組織は個室化され、各人は限定的な仕事内容だけを与えられ、それぞれの部署で働かされている。大統領だって、政治家たちも部分でしか知らされていないんだ。誰も全体は分からない仕組みになっている」
 アイスターも、フリーエネルギーに関することしか分からない。さっきの戦闘で、多くの資料を失ったのもまた事実だ。ここにある鞄一つを残して。
 エイジャックスは顔をそらした。
「全てを知ってる奴は?」
「全部を知ってるのは裏の上の上、雲の上のお偉方さ」
「それが民主国家アメリカ合衆国の真の姿か?」
 エイジャックスも、歯車の一つだった訳だ。
「今更驚かんがな。非民主的なルールなんて軍の中じゃ当たり前のハナシだ」
 マックは平然と言ってのけた。
「だがアメリカは今、別に軍政って訳じゃ――」
 と言いつつ、エイジャックスもNYPD内でそう感じていたところだ。
「軍産複合体がこの国を支配してるってパパは言ってた」
 ハリエットは呟く。事実上の軍政なのだろう。
 「個室化」とはいうものの、エイジャックスやかをる、マック、エスメラルダ―、それにスーなどの情報を突き詰めれば、一つ一つのピースが次第にまとまって、NYのパズルの全体像が見えてくるだろう。
 必要なメンバーが集まってきたことに、ハリエットは不思議な因縁を感じた。まるでパズルのピースがピタッとハマッたような感覚だった。NYという巨大都市の謎を解き明かすパズルが次第に出来上がろうとしていた。
 遠くでサイレンの音が響いている以外、ハーレムは静寂に包まれ、なぜか追手の気配はなく、不気味さだけが漂う中、夜は更けていく。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み