第68話 イカロスの翼 ジェイドを中心に地球は回らない

文字数 4,413文字



二〇二五年六月十七日 火曜日 午後二時

 転瞬、カアッと辺りを強烈に照らしながら太陽が降りてきて、NY上空をビュンビュンと飛び回った。高速で九~十回転した後、ゆっくりと町に接近し、眩い光で誰もが目を覆った。間もなく、太陽は自由の女神の後ろについて、一体化した。自由の女神の光十字が太陽を背景に、一層輝いた。さらにその手前に、ハティが浮かんでいて、ジェイドとNYユグドラシルに対峙した。
「あれは……NYファティマの再来だ!」
 最初のファティマの時、ハリエットは無自覚のうちに光十字をメタモルフォーゼさせると、そのパワーで自由の女神と同通した。その力は、天変をも引き寄せたのだ。今、ハティはそれを無自覚のままに発揮した。なぜ、乙女はバベルなしでそれを成し遂げることができたのか?
「アトランティス人の力だ。古ケルトはアトランティス人の子孫、この世界でごくわずかとなった、彼女は――純ケルトだ! 宇宙を創造する力――ハリエットはその力と一体化している! そんな力を持ったら、お前はその力で……世界を滅ぼすぞ!」
 ジェイドは斜めに浮かんだビルの上に立ち、PMFテレパシーをハティに送り込んだ。
「お前とは手を組めるのだハリエットよ!」
 ジェイドは叫んだつもりだったが、太陽が眩く放つ純白の光に顔を覆って、意思の力では相手に抗えない。
「それで世界を制したつもり!? たとえ全世界を得ても、魂(いのち)を損じたら何の得があるかしら? あなたを中心に地球は回らない。世界皇帝(パワーコントローラー)ジェイド、それがなぜだか分かる? 自分の心を制さないで、世界を制することなんてできないからよ」
「なんだと――時代精神だと思っていたが、お前は私の真意も分からんというのか?」
「私、光十字を通して分かったの。自分がどんなに小さな存在だったかってことを……、NYファティマは、天・地・人のPMFの連動作用。光十字の点灯、PMFは天地との一体化によるものだからよ!」
 ハティの叫んだ声は、ジェイドのハートに直接降り注いでくる。
「かをるが言ってた。この世界は幻想だって……真実はいつも自分の心の中にある。でもあなたは他者を恐れている。あなたは他人を支配し、コンロトールしないと自分の力がなくなってしまうって、怖がっている。だから支配したいんだわ。ジェイド、テクノロジーや富の独占なんかすぐ止めて、人類を解放しなさい。何が本当の勝利なのか。最大の勝利はね、教えてあげる。自分に克つことよ!」
 ハティは自分で発した言葉が、自分の考えでないような感じがした。自分の口を通して、何者かが声を発している。
 ハティは、ジェイドが操作するNYユグドラシルのPMFを押し返した。ジェイドの碧眼に映し出された乙女の姿に、まばゆい黄金光線を放った、純銀製の甲冑を着た少女が重なって見えた。ハティはシティ・ジャンヌだ。右手に剣を掲げ、甲冑を着たジャンヌ・ダルク<ハリエット・ヴァレリアン>から黄金のPMFがジェイドに向かってあふれ出していった。
「ジャンヌを受肉か――、ハティよ、いつの間にそれほどのPMFを!」
 最初のNYファティマ以来、ハリエットは未来を見通す力、リモートビューイングを授かり、ジャンヌと一体化した。戦況を事前に把握し、予知能力によって戦いを進める、「ジャンヌ効果」を。
 その自覚がないハリエットは、古ケルト人の血が濃い、ギル・マックスと同じタイプで、そのことにいち早く気づいた海老川雅弓は、ジェイドに忠告したのであった。
「あなたはPMFの使い方を間違っている! このままじゃ――世界を滅ぼすだけよ」
 ハティはジェイドの申し出を拒絶し、反撃を高めた。
「あなたの力こそが……滅びのきっかけになる。目的のためじゃなく、その手段のために――。あなたが受肉させたのは、六千年前に世界を滅ぼした張本人、そのもの――だからよ」
「そんなことは分かっているとも! 俺は自覚している、最初から!」
 純粋なケルトではないジェイドには、再現したガラドボルグをハティの光十字レイピアの様に、自在にメタモルフォーゼする力もなかった――。だから、無理も承知の上だ。
 あふれ出す彼女の精神エネルギーの発現に、ジェイドは両手で顔を覆うしかなくなっていた。
「PMF――それは、生命創造に最強の力を発揮するカギ、生命の種子そのもの。PMFは宇宙創造から生命誕生、生物進化へと連続してゆくッ!」
 NYの天空がまた様変わりし、渦を巻きながら爆発が起こった。ビックバン、宇宙創造の瞬間を現すように。それは、PMFが解き明かした宇宙創成の秘密――二つのPMFのエネルギーが混ざり合ったとき、大きな力が生み出されるということを示していた。
 微生物から大宇宙まで――宇宙の生命が無限に連鎖を続け、素粒子から宇宙の大規模構造に至るまで、無限にフラクタルで続いていく、そこにPMFが絶対的な生命の根源エネルギーとして貫かれている――。
 さらにその先に見えたものは、より深遠な宇宙だった。ハリエットは大宇宙の多様性の弁証法の中で、新しいものが無限に生み出されていく真相にたどり着いたのだ――。そして、全ての人類はダイバーシティDNAの潜在的な未知のパワーが秘められているのだ。
 宇宙人が求めた、かをる・バーソロミューの秘密、それは――日本の大神宮の宮司の娘と、イギリスの古ケルトのドイルド僧の子孫が結ばれ、ムー人とアトランティス人、二つの霊脈を持つハイブリットなDNA資源である。
 ビカァァァァ――。
 眩く三十四重の光輪を放った光十字を背にしたハティが宙を歩いてくる。
「ク……よ、よせ! 俺にその姿を見せるな!! ハリエット!!」
 NYの支配者ジェイドは、永年、自由の女神を愛し続けていた。黄金色の輝きを放つ、少女の輪郭がハローのように脈打ち、ジェイドの意識に流れ込んでくる。
 ソーラークロス。太陽が光十字に輝いて、駒のように回転した。その色は、白から赤、オレンジ、黄色、黄緑、緑、青、藍色、紫へと目まぐるしく変化した。グランドライトクロスが……ファティマの回転する太陽は、天の因果応報。天のろくろだ。
「ジェイド・ロートリックス、太陽に代わってお仕置きよ!」
「フザけたことを――」
 突如ハリエットの像が飛び上がって、その光十字が巨大な剣に伸びて、黄金のレイピアになって襲い掛かった。ジェイドは必死で剣を抜いて避けようとしたが、レイピアの剣先は眩しく、目に見えぬスピードと剣圧で迫った。
「それが、真(まこと)のエクスカリバー――……!」
 ジェイドが見つめるハリエットは、自由の女神と一体化し、二段階でジャンヌ・ダルクと一体化し、どんどんパワーアップしていった。
「ハリエットこそが、アーサー王を受肉した女!」
「ハァ――――ッ」
 ハティの血がたぎる、オーラが溢れ出すッ! その血の力が「光」となって、ハティの剣先に一点集中していく。ボウッとレイピアの剣身が燃え上がり、稲妻と同時にプラズマ弾が発射され、降りかかった建築資材を粉砕した。さらに剣は白く、眩い光線を放った。
「ライトクロスフラーッシュ!!」
 ドガアアアアアアァ……ッッ!!
 わずか一振りで、宙に浮かんだすべての物体が全部バラバラになった。
 怒涛の突きで、剣先と剣先とが衝突! 剣先が切り結ぶと、衝撃波がドガァァアアアア……と唸り声をあげ、マンハッタンとブルックリンに襲い掛かった。
 光十字が一瞬巨大化し、剣身が光りながら伸びた。青く輝く太陽の光をバックに、ハティの光十字はさらに覚醒した。太陽の青い光のオバーシャドウを受けて、ハティはゆっくりと光十字剣を構える。
「ウウウウ……オオオオ……」
 ジェイドは左腕で目を覆い、光を遮った。
 ジェイドは必死に近づこうとするが――……、虹色に変色する太陽を背負った自由の女神像に近づくほど、身体中が燃え始めた。
「光十字砲(ライトクロス・キャノン)! ――ブルーガン!!!」
 ハティは叫んで、光十字スピアーから真っ青で巨大な光弾を撃った。太陽も青く輝き、一瞬、半透明の青い銃の形状に変化する。
「ガァアアアアアッッ!」
 ジェイドのガラドボルグは真っ赤に燃え上がり、輝きを放った。二色の色がマンハッタンの上空で爆発した。ガラドボルグの剣身は朽ち、ハティは力押しに勝った。
 自由の女神に必死で近づこうとしたジェイド・ロートリックス帝は、ハティの光十字の放つ幾重のハローを突破にするうちに、増大する熱に燃やされ、最後は炎をまといながら落下した。
 ハティは光十字の銃を持ったまま、左手を握り、胸の前で両腕をクロスと、念じた。崩壊し、宙に浮かんだ摩天楼群が元の姿へ戻りながら、もう一つの世界線は次第に遠のいていった。
 ファティマが静まっていくと同時に、時空混乱は収束した。ハティの持った青い銃も、元の光十字へと戻っている。

 MHの儀式の間で、ジェイドの身体は強大なハリエットの青きPMFの衝撃け、数十メートル先の壁に激突して、ドッと床に転がった。アストラル体のダメージは肉体のダメージに直結した。ガラドボルグは右手を離れて吹っ飛び……、真っ二つに折れている。
「ガハッ!!」
 ジェイドは口から血を吐いた。赤毛のDNAを持った人間は痛みに敏感で、他の人に比べて耐性が弱いというが、ジェイドはその説を身をもって体感した。
 ジェイドのガラドボルグの作用によって、ヴィッキー・スーがハッキングで仕掛けたウイルスを駆除したNYユグドラシルだったが、再度ハリエットのPMFの支配下に置かれた。その瞬間、マンハッタンホーンは全機能を開城した。
 ハリエットはPMFで形成したマカバフィールドに乗ったまま、マンハッタンホーン頂上のポートから侵入した。
 儀式の間の中心へフワリと降り立つと、ハリエットは一人で、まっさきにジェイドの実体が倒れているところへ駆け寄った。周りには誰もいなかった。ジェイドの強大なPMFの発露に、リック・バイウォーターはじめ技術者たちは、全ての機器を自動運転に切り替えて、人工山を下山していた。アウローラ本軍も、まだここには到着していないらしい。
「クッ……」
 ジェイド・ロートリックスはハティに気づくと、壁への衝突で流血した右腕を抑えながら、力なくじっと見上げた。赤毛は乱れ、額に脂汗をかきながら、ハリエットの前にその実態をさらした世界皇帝――彼は、過酷なPMF戦に敗れ、これまでの美男子の姿は見る影もない。ハリエットの目の前には、力を失った一人の青年が壁にもたれかかっているだけだった。
 突然、背後からレナード・シカティックが走り込んできて、レールガンをハティに向けた。だがハティは彼の方に向き直って、見つめた。この力を入手した後だと、もはやレナード程度では、ハティは片手をスッと上げて、光十字砲でぶっ飛ばして片付けることができた。
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