第69話 封印された未来 真相、もう一つのアメリカ史

文字数 6,235文字

二〇二五年六月十七日 火曜日 午後五時

「捜査令状です。マンハッタンホーンを強制捜査いたします。ご協力願います」
 ハリエットは右手で白ハーフコートのポケットから令状紙を取り出すと、ジェイドの面先に差し出した。
「市長の次は――刑事ごっこか? お前たちアウローラは節操がないな……」
 ジェイドは無理に笑おうとしたが、かすれて声もほとんど出ていない。左手は剣を探して床に手を伸ばそうとするも、近くには落ちておらず、宙をさまよう。
「無駄な抵抗は止めなさい。ジェイド、もうすぐアウローラ軍の本隊がここに到着します。諦めて下さい」
「少し、話をしないか……頼む」
 ジェイドは再び口から血を吐いた。ハリエットは一瞬沈黙したが、ジェイドの腕を取って、助け起こす。ジェイドは上体を起こして壁に寄りかかり、座りなおした。
「君は、ハーバード大最年少入学だそうだな?」
「ええ」
「俺もハーバード卒だが、卒業に時間がかかった。まったく頼もしい後輩だ、少々頼もしすぎるがな……」
 ハリエットは無言で、次の言葉を待っている。
「我々ロートリックス家が六千年の時を超えて、この新バビロニアたるNYに建設したバベルの塔――NYユグドラシルを、君はあっという間に手に入れてしまった。そんな力を一体どこで? お前の……ゴッゴホッゴホッ、その光十字剣……元の形はペンダントだったのか?」
 ジェイドはハティの胸の光十字を見つめている。
「父の形見です」
「そうか……それが、俺が求めてきたモノだ。エクスカリバーだ」
 前に海老川雅弓が、ジェイドに言った通りの展開だ。
「君らアウローラの光十字現象は、エクスカリバーがなしていた。光十字はケルト十字だ。つまり君は――純ケルト人で、俺は、純ケルトではない。いくらDNA工学でジャンクDNAをいじっても、どうなるものでもない。そう願っていたが、俺が欲しかった武器(モノ)を君は持っていた。俺には使えない。たとえ持ってたとしても――ようやく謎が……解けた……」
 ジェイドによれば、アーサー王伝説のアヴァロン島とは、アトランティスの古名であり、エクスカリバーとはオリハルコン製のアトランティスの神剣だった。つまりジェイドが追い求めた「純ケルト」とは、ケルト人のことではなく、アトランティス人を意味していた。海老川雅弓たちのいう「大和民族」が、実は日本人の祖先である、ムー人を指したように。それは、彼らが使うヒヒイロカネ製の草薙剣と感応するDNAの隔世遺伝だった。バビロニアよりはるか昔に、ムーとアトランティス、超古代の二つの大国は滅び、海中に没した。PMFを用いた大戦によって。
「それが分かっていながら、なぜあなたは――」
「俺の代で歴史を乗り越えて……、何もかも終わらせるつもりだった」
 ハリエットは、観た事もないような数々のマシンを眺めまわした。ここにある機器の数々、マンハッタンホーンや塔を含め、ロートリックス社のエイリアン・リバースエンジニアリングの粋を集めた集大成だ。それらがジェイドのPMFを増幅させていた。一方でハリエットは、光十字ペンダントを身に着けていたとはいえ、ほぼ自力だけで成し遂げ、ジェイドに圧勝した。エイリアン・リバースエンジニアリングなど一切関わりなしに。
「いつかは、傘を貸してくれてありがとう」
「……やはり君だったのか。シティに入った後で気づいた」
「あなたはNYを乗っ取った。あなたからNYを取り返す。それが私のやることよ。ジェイド、あなた方が誘拐した町の人々を解放しなさい! 私の友達は――、かをるはどこにいるのよ!?」
「宇宙人は――人類の敵だ」
「ならなぜ手を組んでいるの?」
「UFOは現代の聖杯だからだ。敵に勝つために、宇宙からのテクノロジーが必要なんだ。もし条件を呑まなければ地球は侵略されていた。そう、我々軍産複合体の旧世代は判断した。ロズウェルに墜落したUFOをすべて回収し、アメリカ政府は事実を徹底的に隠ぺいした。その技術をロートリックス・グループが独占し、その恩恵をエイリアン・リバースエンジニアリングに生かすために」
「宇宙人と戦うため?」
「そう、この星は独立しなければならない。俺の家の者たちは先代まで人間を誘拐し、人体実験をする宇宙人共に手玉に取られていた。――俺はそれが不満だった。だから俺の代で終わらせる。倒さねば人類はこのまま隷属されたまま。そのための武器だ」
「ハリウッド映画も正当化のため?」
「そうだ……」
 映画業界はロートリックス家に牛耳られ、宇宙人に対するプロパガンダの道具と化していた。友好的な宇宙人がテーマの物語は描かれなくなり、企画も通りづらくなった。世界中の人々が宇宙人侵略映画を鑑賞し、潜在意識に宇宙人は敵だという方程式を植え付けられた。反撃の意思を持たせるために。
「ジェイド。私の父を殺し、宇宙人と密約し、NYの時空を改ざんしたあなたたちを許さない。自分たちだけで、宇宙のテクノロジーを独占しようなんて愚かなことなのよ」
 一部は光ファイバーやステルスなど、世の中にも情報公開した技術もあると、ハティはアイスターから聞いている。だが、中核の技術は秘匿されていた。
「今の精神的水準の地球人に、簡単にオーバーテクノロジーを解放したらどうなる? 子供にピストルを与えるようなものだ、すぐに各国や各勢力の乱用が始まる」
「そんな提携なんかしなければ、政府が人さらいを認めた歴史もなかった。テクノロジーを独占したいっていう下心があなた達にあったから、宇宙人も乗ってきた。そうでしょう?」
「だから……手を組めるだろう、と言ったのだ。奴らを出し抜くために。ハティ! 本当のNYを取り戻す革命などと、どれほどの愚行か俺が教えてやろう――君には知る責任がある。ゴホッゴホッ」
 ジェイドは説明を続けようとしたが、また口から血を吐いた。ハリエットはジェイドの腕を掴んで支えた。相手が何を言おうとしているのか、ハティは若き世界皇帝の次の言葉を待つことにした。
「本当は、君の出現を俺は恐れていた……ロック・ヴァレリアン市長を倒しても、娘の君が立ち上がった……まるで、歴史の修正が入ったかのように――」
 ジェイドの声は掠れている。
「君は自分が正式な市長になり、不平等条約を公表すれば、すべてが明かされ、世界は平等になって、平和が訪れると思っているだろう。七十八年目にして、NYの百年戦争を終わらせることができると。ジャンヌ・ダルクのように。だが、そうはならない。この国の未来では、限定内戦にとどまらないんだ」
「……え?」
 ジェイドは、ハリエットたちの会話を盗聴していたらしい。知っているならそれでいい。問題はその後だ。
 今、ジェイドは未然のはずの出来事を……語った。未来を、知っているのか? 言い間違えではないらしい。自分よりも遠い未来を見通したような、確信に満ちた言葉だった。
「お前たちアウローラは我々と、大規模内戦を戦うことになる」

「最初の世界線で、我々は一市長の告白を無視した。大したことはないと高をくくっていたからな。だがロック市長率いるアウローラ党は軍や、政府高官をも巻き込んで、アメリカを二分した。国民の間でパニックが起こり、それがきっかけになって、果てしない内戦へとつながっていった。ロック・ヴァレリアンのディスクロージャーが、その始まりだったんだ……」
「――え?」
「ロックが大統領になり、ディスクロージャーを行えば、アメリカは第二の独立革命が起こり、全てが変わっていく――こういうシナリオをお前たちは描いていたはずだ。だが実際に起こった歴史では、大パニックを機に、アメリカ各地の軍基地で、機会を覗っていた各軍閥が武装蜂起する。すぐに我々ロートリックスとの、アメリカ革命の内戦が始まった……南北戦争以来の内戦は、やがて全面核戦争へと発展し、国民はほとんど死に絶えた。その後も国土は、AIとアンドロイド兵だけが殺し合う地獄の世界になるんだ。……国民が真実に耐えられず、パニックに陥ったことが原因でな」
 まるで、オーソン・ウェルズのラジオドラマ「火星人襲来」のような大騒動が、アメリカ全土を襲った。ロック・ヴァレリアンが大統領になった後、アメリカで内戦が拡大、最後は国内での核戦争まで至った。それは、未来で起きた南北戦争――“アメリカ東西戦争”の現実だった。
「…………未来の戦争、本当の歴史!?」
 オリジナルの世界線(タイムライン)では、二〇三五年に、ロック大統領が地球外生命体が存在する事実を発表したらしい。国民はアメリカが内戦で徹底的に破壊されたのはロックに原因があると妬み、その結果、二〇四五年にジェイドは、過去の時代への暗殺指令を出した。ロックは二〇二五年に暗殺され、現在の世界線にシフトしたのである。
 核兵器の使用は敵地の即日占領もできず、味方軍や自国の領土にも悪影響を及ぼす。もはや、絶対使えない戦争抑止力だけの兵器であることは、自由主義世界の三帝国財団の間では共通認識となっている。つまり、ゼレンもロートリックスも東京も同様だ。しかし、その核戦争が起こってしまう。
 ジェイドはアンビバレンツに陥っていると、周りからは見られていた。塔のテクノロジーと宇宙人問題を公表すれば、CO2の増大は止められる。だがそんなことをすればこれまでの歴史が暴かれ、内戦、しいては世界大戦に発展する。だからジェイドはそれを避け、塔を使ってスーパーエルニーニョなどを引き起こして、温暖化を阻止しようとしていた。
「事はそれだけで終わらない。二〇四五年に、二つのAIがシンギュラリティに達すれば、NATOvsロシアの間で、世界大戦が起こることになっている」
 未来でゼレンテックがAIのメタルコアを開発中に、ロシアでAI、ロゴストロンの開発が先行していたことが判明する。両者の戦いの最中、ブルーガンという兵器が出現したのだという。
「それが君の、光十字エクスカリバーではないかと思う」
 この光十字が人手に渡り、青光を放つブルーガンへと進化する。原理は超重力子砲。最終戦争(ヨーロッパNATO)vsロシアを停めるために使用された後、ドナウ源流にあるアルジェダ神殿へと託された。それは強大な力を持つゆえ、封印されたのだ。ハリエットは、光十字を手にくるんだ。
「ラリー・E・ヴァレリアン効果は、前の世界線のアメリカ国民の記憶なのね?」
 ハリエットは訊いた。
「あぁ……前の世界線のことを覚えている国民は多くいる。それが世の中で噂されている都市伝説の真相だ。――苦い記憶を、俺も持っている。苦しみと怨念がどんなにこの国に渦巻き、この国の未来を奪ったか。その記憶をオマエたちは蒸し返そうとしているんだ。だから、我々はこのクロノマシンで歴史を――改ざんした」
「ラリー大統領も……あなたが殺したの?」
「俺ではない。だが、仲間の誰がやったのかもしれん――俺は聞いていないが」
 ジェイドが暗殺したのはロックだけだったらしい。本当かどうかは不明だが。でも、今更嘘をつく必要性もないだろう。
「――もう一つ訊きたいわ。なんでこっちの世界線では、コロナ・パンデミックが起こらなかったの?」
「初期感染者たちを封じたんだ。本当はそれは始まっていたんだが、この世界線では、話題にもならなかった。パンデミックは、私の計画に邪魔だから阻止した」
「――どうやって?」
「二〇二〇年に遡行した未来人が、未来のテクノロジーで初期感染者を治療した。二〇〇三年のSARSも二〇一二年のMERSも封印した。――我々だけでなしえたと思うか? いいやそうではない。スターゲート装置の開発は、未来の国民の総意だった。我々は民衆の応援を受け、大戦末期のアメリカで完成させた。安定的なスターゲート装置を」

『こうなったのは皆ロックが悪い』
『“アイツ”さえいなければ!』
『ロック・ヴァレリアンなんて居なければよかった』

 それは、未来のアメリカ国民の恨みだった。その結果、影の政府内で計画が立てられた。
 大戦末期の二〇三〇年に、エリア51でエイリアン・リバースエンジニアリングのタイムホールが完成する。それと同時に、塔が完成した。もう、大戦で地球滅亡の歯止めが効かない間際に。
 未来のマンハッタンホーンの中には、異次元の扉が存在した。それを使って、未来からロック・ヴァレリアンを消す命令が、この時代の軍産複合体の指導者に下った。
 ジェイドは、未来の自分と記憶を同期した。それで米軍基地のタイムトンネルから過去へと遡行し、スクランブラーにロック・ヴァレリアンを暗殺させたのだ。
「今から五年前の出来事だ」
 ジェイドは全てを語った。
「…………そんな」
 ハリエットの顔は蒼白になり、唇は渇いていた。
 シン・マンハッタン計画はマンハッタンへと帰る。マンハッタンホーンの直下には、古代文明の遺物が埋まっていた。それはバビロニア帝国の第二神殿で、土台にオリハルコンが使われている。宇宙人はそれを必要として、NYにマンハッタンホーンを作ることを取引で持ちかけた。当然、ロートリックス社も土台を探しているが、まだ見つかっていない。
 アウローラを封じ込めるためのNY大災害を機に、マンハッタンホーンは建った。それと同時に、処刑部隊スクランブラーが暗躍する暗黒社会になった。
 未来からの暗殺指令! まさに、「ターミネーター」の世界観だ。でも彼らは、世界を救うためにやっているつもりなのだ。
「父さえ……いなければ……!」
「これから起こる内戦では、無血革命など、おとぎ話に過ぎない。アメリカ人同士が血で血を洗う。核兵器を含んで。お前たちがパンドラの箱を開けたのだ。何も知らずに、ディスクロージャーなどと言って」
 それは、過去改変の真実。影の政府が、グレイとの宇宙協力を隠蔽しつづけ、かつロック・ヴァレリアンを暗殺した真相だった。
「歴史は我々が塗り替えた。長く続いた内戦で荒廃する前の状態にな。だが今、君が立ったことで、歴史が繰り返されようとしている。我々は戒厳令を敷き、限定内戦まで起こしてアウローラを全滅させることを目指した。君らは勇敢にも我々のスクランブラー部隊を打ち破り、マンハッタンホーンを占拠してしまった。それが今後、どんなに恐ろしい未来を招き寄せるのか分からぬままに。このままでは、またお前たちがアメリカ全土を飲み込んでいってしまうだろう……」

 果たして敵から聴いたこの話……本当なのだろうか?
「う――嘘……嘘だわ、そんなの――嘘よ!!」
 ハリエットは相手の瞳に、偽りの光が宿っていないことに半分気づいていたが、否定するよりどうすることもできなかった。
 ハリエットは、呆然と突っ立っていた。そのせいで、次にジェイドが取った行動は完全に予想がつかず、ハリエットの初動が遅れた。
 ジェイドは折れたガラドボルグの柄をひっつかむと、PMFを発光させた。ハリエットはバッと後ろに飛び下がり、光十字を構えようとしたが、その前に赤い光に包まれた。
「あっ……ああ――……っっ」
 ハリエットは不意を突かれてのけ反り、光十字を構えるのに半手遅れた。
 スターゲート装置と同期した、神剣のPMFは、クロノマシン起動装置になっていた。
 ジェイドはバッと立ち上がると、ガラドボルグを使ってクロノマシンを起動させた。スターゲート装置を搭載したUFOが、まばゆい光を放った。
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