第73話 NY流星 イヤー・オブ・ザ・ライトクロス

文字数 5,027文字



二〇二五年六月二十一日(夏至) 水曜日 午後七時

 薔薇は赤く、すみれは青い、砂糖は甘くて、あなたは素敵だ
                         マザー・グース

限定内戦委員会MICA(マイカ)

 久しく姿を現さなかった国連安保理限定内戦委員会のシェードが顔を出した。改めて今回の戦の沙汰を告げに来たのである。
 シェード・フォークナーは、マンハッタンホーンに国連関係者を連れて、執務室に現れた。その中には、国連事務総長カリアン・ローガンシーの姿があった。彼はアメリカ・インディアンの出身だ。シェード自身は、マンハッタンホーン内に入るのは初めてらしく、辺りを見回している。
「NY限定内戦は、アウローラ・フェローシップの勝利です。おめでとう、ハリエット」
 そこでシェードは初めて微笑んだ。
「正直あなた方が勝ってホッとしています」
「なぜだね? シェード」
 アラン知事が尋ねる。
「そろそろ国連の立場を聞かせてくれないか。あんた方は結局どっち側なんだ?」
 腕を組んでいたエイジャックスは尋ねた。内戦管理とその結果報告だけかと思えば、アウローラが勝利してホッとしたとは、どうやら様子が違う。頭がこんがらがっている彼らに、シェードが答えた。
「我々は中立の立場ですが、ずっと応援していたのです。あなた方を……。我々限定内戦委員会の正体は、NY最大の秘密結社、マイカ(雲母機関)です」
「また秘密結社か。それは結構だが……国連本部はもともとロートリックスから無償で土地を提供されてるだろ? 奴らの一味じゃなかったのか」
「我々は今回の限定内戦を利用し、内戦期間中にキララを使って国連本部を完全に乗っ取りました」
 国連には世界中からあらゆる人種・思想信条の人々が集まっているが、議長が限定内戦期間中に、それを利用して、国連をマイカ機関のAIキララで乗っ取り、内部統制を図ったのだという。
「マイカ……? 確か、国連のAIがキララで日本語で雲母って意味があるのも何か関係があるのか?」
「もちろんです」
「なぜ国連が?」
「国連は以前、『雲母の館』と呼ばれたことがあるからよ。ホピ族の予言の中で」
「ホピ族! 事務総長、あなたホピ族のご出身?」
 エスメラルダは、同僚のクロード・クロック記者が追っていたホピ族の謎が、目の前に現れたことを知って、頬を紅潮させた。
「そうです」
 一九七六年、かつてホピ族は国連総会で予言を発表し、その核戦争の滅亡予言に賛同したメンバーをもとに結成されたのがホピ長老会、「MICA(マイカ)」、ミステリアス・インテリジェンス・クルセイド・エージェンシーである。
「雲母(マイカ)の館の……ホピ族の秘密結社ってことね」
「あぁ、何か聞いたことがあるぞ。ホピ族の予言てやつだ。残念ながら二〇一二年は何も起こらなかったがな」
 エイジャックスは両手を振り上げて話を遮ろうとしたが、アランが制した。
「続けてくれ」
 シェードと交代して、国連事務総長が説明する。カリアン・ローガンシー。大柄の六十代の長い黒髪を持ったアメリカンインディアンの能力者の雰囲気を漂わせている。
「我々の予言に、<天上の居住施設が地球に落下する、その時に青い光が現れ、ホピ族の儀式は幕引きとなる>というものがある。それは、来るべき巨大隕石の落下の予言で、今の第四の時代が終わるんだ」
「隕石が青い光なのか?」
「いや、隕石が落ちるか否かは、ひとえに宇宙的な磁気の流れにかかっている。地球という磁場が、隕石が接近した時にどのような状態かが、重要なカギなのだ」
「磁場……」
 ハリエットはつぶやく。
「極移動についてはどうなの?」
 エスメラルダが訊いた。
「大いなる清めの日に、地球の両極に頭としっぽを置く二匹の巨大な蛇の頭を抑えていた軍神の力が弱まる……と、予言されている。ポールシフトもまた、宇宙的な磁場の問題だ」
 二万五千九二十年かけて、十二星座が一回りする。太陽系は楕円を描いて、銀河の中心から近づいたり、遠ざかったりしている。太陽系が銀河の中心から離れていくと、人間の意識は眠り、銀河の中心に近づき始めると目覚め始める。現在は、再び目覚め始めるときに差し掛かっている。
「だから、それを滅亡と捉えるか、新生と捉えるかは観方の問題だ。古い時代が終わり、新しい時代が始まる。第五の世界は平和に導かれる。新しい人類は未知の物質を身に着け、想像を絶する方法で旅行をする……」
 つまり、今の地球の極移動は産みの苦しみだという。
「この予言の青い光が、ハリエットの光十字のことを差すと私は思う。君のPMの発するPMFの光だ。ミステリアス・インテリジェンス・クルセイド・エージェンシーの、クルセイドの青い光が今、このMHに灯った――。私たちはついに見つけたのだ……」
 ハリエットは、一歩後ずさった。
「私はあなたを、民衆を解放する人だと信じていた。NYファティマの時に。ZZCみたいに、頭ごなしの偏見で奇跡を否定するのは、神の恩寵を否定するのと同然だ。NYの光十字の天変を、私たちは神性の御業であると考えている……」
「我々はいわばアメリカ新革命のエッセネ派という訳……」
 シャードは議長の言葉を継いだ。
「光十字と愛のエネルギー、世界を救えるのはあなた方アウローラ、そしてハリエット、この星の救世主……だってことを」
 ローガンシーは断言した。
「き……救世主!? えっちょっちょっ、い……イヤよ……私は……」
 ハリエットはジリジリと後ずさる。
「なんてこった……」
 エイジャックスはあきれを通り越して、もはや突っ込む気力もない。ハリエットが、ホピ予言やら死海文書が予言するメシアとして浮上したオチである。もう何があっても、この町で何が起こったとしても不思議ではないのだ。今更、一つや二つ「秘密結社」が沸いて出た所で、「ハイそうですか」と応じるより他に術はない。
「ホピとは、『平和の民』を意味する。我々の秘められたミッションは、今や国連全体のミッションともなった。……そういうことです」
 マイカはハティがNYファティマを起こした時から、彼女に目をつけていたらしい。
「だから、ハリエットがその人ではないかと感じ、シェードに案内させたのです。レディことシェードを通して、アウローラの内偵調査を行ってきました」
 カリアンは言った。
「薔薇は赤く、すみれは青い、砂糖は甘くて、あんたは素敵だ」
 アイスターがハティを観て、笑っている。

「これから地球は大混乱期を迎える。その時に我々は真の持続可能な社会を目指して、地球を取りまとめるための統一政府が必要です。もはや世界がバラバラでは、前には進めない。第五の時代を迎えるために、ハティ、君たちにはこれから、世界統一政府を作る協力をしてほしい。この時代の危機を乗り越えるために」
 カリアンは静かに、ハリエットにそう伝えた。
「尋ねるが、帝国財団の作る影の世界政府、“三極”との違いは?」
 アウローラは、日米欧三極持続可能委員会=世界政府の認識の中でずっと戦ってきた。それを今になって目指すというのはどういうことなのか、エイジャックスは率直な疑問をぶつけた。
「統一政府は、地球が一つとなって、ワンネスの意識が社会へ反映されるということです。真の多様性(ダイバーシティ)です。ロートリックス帝国財団は彼らの論理の中で世界を統一し、地球を守ろうとしているが、彼らはかえって社会に深刻な分断をもたらしてきた。地球が地方国家群に分裂した時代は過去のものとなろうとしている。一部の者たちのための地球であってはならない。多様性を内包しつつ、地球の危機に対し、全人類が一丸となって乗り切ることこそが、今の時代の要請なのだ」
 ローガンシー事務局長は、影の政府の論理を完全に覆した。高邁すぎる構想のため、おそらくパッと聞いただけでは誰もにわかには信じられないだろう。
「持続可能(サスティナブル)な人口削減は?」
 それは、有名な都市伝説である。
「地球には百億人を食べさせるキャパがある。今の時代に、人口が増えているのは天意だ。天から魂が生まれてくる以上、誰一人天の計画なくして生まれてきた者はいない。一部の地上の権力者たちが、他人の生活を否定する権利はない。人間は、天・地・人一体なのだから」
「人類ってのは、そんなに聡明かね?」
 マクファーレンは口をはさんだ。
「そのために人工知能もあるんだろ? キララがそれかどうかは別として」
 アイスターがなぜか返事をする。
「俺たちに統一政府を作る力があるとは思えんな。一世代で終わる仕事じゃない」
 エイジャックスは言った。
「君たちだけではない。予言には、<禊の日が近づいた時、 遠くへ旅立った白い兄が欠けた石板を持って戻り、世界を清め平和に導く>とある。かつて、第三の世界の滅亡から生き延びた一部の人々は、神の書を石板にしたため、東西に分かれて定住した。ホピは西に渡った弟で、東に渡った兄は日本人だと解釈している」
「日本人か」
 全員が、かをる・バーソロミューを観た。
「日本にも、革命を手伝ってくれる同志がいるってことね?」
 スーはかをるを見て言った。かをるは、戸惑いを隠せない。
「私は救世主なんてものじゃない。自由の女神が鎖を解き放つ意味を込めて、国民の解放を、私、みんなの前で宣言する」
 ハリエットが限定内戦の勝利を国連に言い渡されたことは、アウローラたちの士気を高めた。真の民衆解放をこの国で実現するために――第二の奴隷解放宣言をしようと、ハティがシェードに向き合った瞬間、外が急に明るくなった。

NY流星



 夜空が急激に万華鏡のように輝いている。みんな巨大ガラスの外を見やった。
 NYの夜空に流星群が降り注いだのだ。その流星の一つ一つが、強い光彩を放ち、ハッキリとした光十字をはっきりと輝かしている。
「これは……」
 流星の一つ一つが、光十字に輝きを放ちながら、NY上空に降り注いでいった。
「天がこの戦いの勝利をたたえたてる――」
 ローガンシーは言った。
「百八の魔星、再び世に放たれる!」
 七人でライトクルセイダースを立ち上げた時に、ヴィッキー・スーが言った水滸伝の冒頭シーンだ。
「あの流星の一つ一つが私たちだよ。マンハッタンホーンはNYの梁山泊だ!」
 ヴィッキーが叫んだ瞬間、自由の女神のトーチの光十字に反応して、帝国財団から奪還した、NYの拠点ランドマークが次々と輝いていった。
 異変は流星だけではなかった。マンハッタンホーンの七百メートルの階から眼下に広がるマンハッタンの街のビルというビルに、光十字が灯っている。赤い光のコロンビア大学に始まり、オレンジ光のエレクトラタワー、そして黄金光のメトロポリスタワー、同じく黄金色のセント・パトリック大聖堂、黄緑光のマディソンスクエアガーデン、緑光のフラットアイアンビル、さらに青い光のNY市庁舎、ここマンハッタンホーンは藍色光に、モニターに映し出されていた。
 セントラルパークのUFO落下地点で、UFOのPMとかをるの精神が感応した結果、ザ・レイクはマンハッタンのセントラルパークにあるチャクラとマンハッタンヘンジの5Gが連動した。それは、ベルヴェデーレ城へと噴出して、古城に橙赤(コーラルピンク)の光十字が灯っていた。国連本部も黄金色に輝いている。アウローラ軍が内戦で次々点灯した結果の、最後の天変だった。
 北から順に光十字が灯り、純白に光り輝く自由の女神へと、それらは七色に輝いていた。マンハッタンのチャクラがすべて活性化し、町全体からオルゴンエネルギーが放たれ、その結果NYAtoZ全体で虹がかかった。
 国連とアウローラ・グループは、マンハッタンホーンの窓から夜空を見つめ、ハリエットの光十字で、光十字に光る自由の女神のトーチを見つめた。天は、NYがアメリカから独立し、国連がそれを支持することを示唆していた。
「残るは、バベルだけか……」 
 アランが見やった。
「私、NYユグドラシルの別名を、一者の塔から、アウローラの塔へと改名するわ」
 ハティは言った。スーのハッキング以来、NYユグドラシルは封じられていたが、機能解放されてハティと同期した瞬間――世界を愛の衝撃波が一周した。
 最期、アウローラの塔に灯った巨大な光十字は、紫光に、高貴に輝いていた――。

                                     END
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