ビシェノーの話:静かなる

文字数 796文字

 ビシェノー(Bicheno)は、タスマニア州にある浜辺の街です。ポート・アーサーからローセスタンへ向かう途中で立ち寄りました。

 緯度が高く日没が早いタスマニアの冬、モーテルに着いたのは暗くなってからで、翌朝誰もいないビーチへ散策に出かけました。タスマニアの空と海は、オーストラリア本土(メインランド、タスマニアの人たちはこう呼びます)とは異なる銀灰色で、寒冷のためか透光度が高く、清楚な美しさです。


 波打ち際で娘が遊んでいる間、J氏(夫氏)はサーフィンにやってきたらしい地元の方と話に花を咲かせたようでした。住民は千人に満たない、リカーショップも一軒だけの小さな街でも、まだ三十代に見えるその男性にとっては、きっと海が好きで、マリンスポーツが好きで、毎日が事足りてるんだろうなあ、と思いました。

 私たちの他にやってきたのは、両親に連れられた小さな姉弟です。お姉ちゃんもまだ三つか四つに見えますが、抱えたランチ・ボックスにリンゴを入れて、ビーチでピクニックのようです。なんというか……別にお金を沢山稼げなくても、ちょっと不便で簡素な生活でも、毎日強迫的なストレスと人間関係に晒されているような社会環境に耐えるより、よほどハッピーなのじゃないかしら、と思いました。

 タスマニアが、ということじゃなくて、価値観、何をもって幸せと感じるか、多様な幸せの在り方を許容できるか、ということだと思います。社会的地位だとか、高収入だとか、模範的家庭とかが、個人の幸せと同じとは限らない。何の肩書きも無く、糊口を凌ぐくらいに働き、自分にとって大切なものを愛でて、迷惑かけずに生きていけたら、いーんじゃないかしら。

 ビシェノーには有名なロブスター・レストランが有り、ローカルのお客さんにも旅行者にも人気です。みんなでお喋りして、美味しくてハッピー!(キャンベラではシーフードを食べる機会が少ないので、興奮気味)


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