ウロンゴンの話②:吉方かな、吉方かな

文字数 643文字

 十年以上前の話がまだ続いております。着の身着のまま、土砂降りの真夜中にウロンゴンへやってきた私たちですが、もはやシドニーへもキャンベラへも引き返すことができず、よし、泊まるところを探そうか、と相成りました。

 しかし夏場の土曜夜、どこのホテルもモーテルも満室です。何軒か回って、ええいままよ、と普段は足も向けないビジネス・ホテルのフロントを尋ねたら、

「……一室キャンセルになって空いています」

 学費の支払いですっからかん、働き始めたばかりの私たちにはかなりのお値段ですが、仕方ありません。フロントさんも、こんな夜更けに濡れ鼠二人をよく通してくれたものです。それとも時々いるのでしょうかね、私たちみたいな二人連れが……

 翌日、雨上がりのウロンゴンは、街並みもビーチも道ゆく人々も、眩いように美しかったです。と、いう訳で、ウロンゴンは私たちの若気の至りに付き合ってくれた街なのでした。それから二人でちょっと遠出したい場合には、よくウロンゴンを訪れました。

 もともとシドニーに近いリゾートで、古き良き宿場町的な雰囲気なのですが、これはあれです、小さい頃祖母に連れていって貰った熱海みたいな……空が広くて、ヤシの木々がぶっきらぼうに立っていて、お土産屋さんやマリン・スポーツのお店が賑やかで、鄙びたカフェがあって、不思議な路地を見つけて、夜になっても波の音が聴こえてくる、子ども心を掴んで離さない、あの感じ。月の〜砂漠を〜、はーるーばると、です。

 そしてウロンゴンには、大きなお寺があるのです。
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