ハイカラ娘と電脳娘

文字数 723文字

 まあ……今の若い子は見たいときにオンラインで見たいものが見られて便利ですよねえ。と、娘がスマートテレビのリモコンを扱っているのを横目に思う。

 私も子供の頃はテレビを見ることが好きだった。学校から帰ってきても、親は共働きで不在だったので、テレビを見て、絵をかくことが、一人っ子の楽しみだったのだ。いつも祖母がいてくれたはずなのだが、一緒に遊んだ記憶はあまりない。

 祖母はいつもキッチンの角で椅子に腰掛け、本を読んでいた。祖母の部屋のコタツには、何度も読み直されたのだろう、カバーが少しささくれだった、文庫本が積まれていた。叔母たちが言うには---祖母は時代小説をよく読むが、一番好きなのは『赤毛のアン』シリーズ。若い頃は路面電車に乗って映画館に通うハイカラ娘だった。だから当時としては遅い結婚になってしまった。それから苦労した。

 私が覚えているのは、祖母は『となりのトトロ』を懐かしいと言って、テレビでの再放送を楽しみにしていたことと、ハンバーガーが食べたくて、時々孫にお駄賃をくれては、買いにいかせていたことだ。椿の花が好きで植え、洗いもの後の米粒は庭の鳥にやっていた。ぬか漬けをつくり、お華の免状を持ち、着物を刺繍する、多才な人だった。長じても孫は何一つ敵わない。

 何よりも本を読むのが好きだったのだと思う。今だったら、自分で小説を書いていたかもしれない。制限の多い時代に生まれてしまったけれど、祖母の創造力は逞しかった。

 便利さが必ずしも共感性やインスピレーションに貢献するわけじゃないのよねえ〜と娘に語ってみても、分かるようになるまでもうちょっとかかるのかもしれない。おばあちゃんの酢豚、また食べたいなあ。

大晦日のコモンウェルス・ブリッジ


ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み