「私を見つけて」

文字数 790文字

「おかーさん、最初に宇宙へ行った動物知ってる?」

 オーストラリアのほとんどの学校では、今週から新学期です(州によって異なる)。勉強は倦厭しがちでも、学校は好きな娘は、うきうきとしています。

「知ってるよ、犬でしょう。ライカ」

 正確には、地球軌道を最初に周回した動物が、ライカ。1957年にスプートニク二号に乗せられた犬だ。そう言えば、ライカのことを初めて知ったのは、私が娘の歳くらいのときだった。

「猿とか魚とか昆虫も行ってるよ」
「何で。お魚さんとか、水もふわふわ浮いちゃう」
「実験のため。スペースシップの機能を確かめたり、宇宙空間で生活するいろいろな条件を調べるんだよ」

 科学の進歩のために、どれだけの動物が実験に使われていることか。別に倫理の話をするつもりはないのだけれど、彼らが何を思っていたのかなあ、とか、彼らと親しかった人々だって辛かっただろうなあ、とか考えることはある。

「その犬、まだ宇宙にいるよ、多分」
「本当?」
「その頃の科学技術じゃ、宇宙へ行けても、帰って来れなかったんだ。もう生きてはいないけど」

 調べてみたら、スプートニク二号は最後、大気圏へ再突入して消滅したらしい。最初から生きて帰る可能性の無かったライカには、打ち上げから数日後毒入りの餌が与えられたとも、キャビン破損による過熱や発射時のストレスで、数時間数日後には気配が途絶えたとも言われているが、事実は不明。

「……だから、勉強して、宇宙から連れ戻してあげられる方法を考えなよ。地球の家族にまた会わせてあげて」

 うん、と娘は頷いたが、母にも気付いたことがある。勉強というか学ぶことって、だれかのなにかの思いを叶えられるからこそ、価値があるのではないかしら。それまで見えなかったその姿を、聞こえなかったその声を、見つけて掬い上げることではないかしら。優しさを身に付けるということではないかしら。

テスラの水平線






 
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