5.1佐伯と歩田の試み
文字数 1,872文字
5.
佐伯さんの調べていることについて、次は九になるということを思い出す。二、三、四人ときて次は五ではなく九人。なんのことかと言えば十中八九、会議のことだろう。
ふと、僕は考えた。会議のために館を調べている。もしそうなら、次の数字は九ではなく、数列はそこで終わりではないだろうか? 四の時点で館の調査は終了し、次はないということだ。
もちろん冗談で九と言った可能性もあった。すでに館のことは調べており、その報告の準備も整っているのかもしれない。
ただ次の数字が本当に九だとするなら、館の調査は継続されており、会議そのものが館を調べる手段になっている可能性もあった。そうなると取っ掛かりから考えを修正する必要がある。
もし何かに挑戦するとき、いきなり完璧さを求めると多くの場合は失敗する。小さな積み重ねを経て、徐々に難しくしていくことで、人は上達していくものだと思う。
今回はどうか。もし九という数字が館の究明に繋がらないのなら、そう言えるのかもしれない。今までの行動が会議で失敗しないためにあって、そのために場数を踏んできた。
ゴールは会議を成功させること。
けれど実際に佐伯さんの口から館について調べているという言葉が出てきていた。そして九と続くとも。
佐伯さんの口ぶりからして九という数字に特別な意味があるとは思えなかった。二、三、四ときて、たまたまタイミングが合わなかったから九になった。時間があれば五、六、七と続いたのだろう。そんな気がする。
だから数字の並びに意味は無さそうだった。となると、卓球、猫カフェ、ボーリング、会議の並びに意味があるのかもしれない。そう思って考えて見るけれど、出鱈目だった。こっちにも関係があるとは思えない。
それなら、考えられるのは動機のほうだけれど。
そう考えていると僕はまるで獲物を見つけたときの目に捕らえられた。バッタリ出会ったのは大川さんだった。
僕は驚きで一歩後退する。
「もしかして角待ちですか?」
「食パンはもう胃の中だよ」
「自然エリアを歩いていたはずですけど」
「奇遇だね。私も自然エリアを歩いてた」
そしてたまたま同じ通路に合流する道を歩いていた。
だから出会った。
それはそうだけど。
「ええと、とりあえずこの先のことはだいたい察しがついています、って苦言を呈してみます」
「あれ、まだ何も言ってないけど」
「目が語っていました」
「私の目がそう話したの? 日が暮れてないのに?」
「夜なら話すんですか?」
「自分が寝ているときのことなんて誰にも分からないよね?」
そう言って大川さんはおどけてみせる。
もしかしたら寝ている間の世界というのは別の形をしているのかもしれない。喋る絵画、笑い出す椅子、踊るコンパス。まあ、冗談だけれど。
「歩田くんは、今夜は暇?」
「ですよね。そう思って空けておきました」
「少し付き合ってくれない?」
「……分かりました。今回だけですよ」
「君はいつもそう言うね」
ということはあまりこの言葉も機能していないのかもしれない。そういえばこの言葉に匹敵する一生のお願いという言葉を大川さんは言ったことがなかった。
「場所はどこですか?」
「叶枝の部屋って言いたいところだけれど、歩田くんがいるならそうはいかないか」
つまり佐伯さんもいるということ。
それは特別変わったことではない。
大川さんによく捕まるといえば佐伯さんもそのうちの一人だった。
「キッチンってどこにあったっけ?」
「レストランとか頂点にある食堂、あとフードコートとかですね」
「それはちょっと面白くないよね」
「飲むつもりならそうですね」
「それって飲めない君が言うことかな」
僕は「飲まないだけです」と答える。
大川さんの表情が固まった。
「え、そうなの?」
「そうですけど」
「じゃ今まで飲めないふりをしていたんだ?」
「そんなことした記憶はないですけど。単に飲む理由が無かったからだと思います」
「そんなもの?」
「そんなものじゃないですか?」
「難しいね」
「単純だと思いますけど」
「君のことがだよ」
そのことに対してもやはりそんなに難しいだろうかと僕は考えた。けれど言ったところでつまらないような気がしたので、そのことを口にはしなかった。
「そう言えば、リラクゼーションエリアにホームパーティーみたいな場所がありませんでしたっけ?」
「え、ああ。さっきの話に戻ったんだね。あったかな。何階?」
「二階の隅の方の」
「ああ、あそこのことだね。そう言えばそうだ」
僕は「何時にそこ集合ですか」と聞いた。
「七時にしようか」
そういうわけで僕たちは一旦別れることとなる。
佐伯さんの調べていることについて、次は九になるということを思い出す。二、三、四人ときて次は五ではなく九人。なんのことかと言えば十中八九、会議のことだろう。
ふと、僕は考えた。会議のために館を調べている。もしそうなら、次の数字は九ではなく、数列はそこで終わりではないだろうか? 四の時点で館の調査は終了し、次はないということだ。
もちろん冗談で九と言った可能性もあった。すでに館のことは調べており、その報告の準備も整っているのかもしれない。
ただ次の数字が本当に九だとするなら、館の調査は継続されており、会議そのものが館を調べる手段になっている可能性もあった。そうなると取っ掛かりから考えを修正する必要がある。
もし何かに挑戦するとき、いきなり完璧さを求めると多くの場合は失敗する。小さな積み重ねを経て、徐々に難しくしていくことで、人は上達していくものだと思う。
今回はどうか。もし九という数字が館の究明に繋がらないのなら、そう言えるのかもしれない。今までの行動が会議で失敗しないためにあって、そのために場数を踏んできた。
ゴールは会議を成功させること。
けれど実際に佐伯さんの口から館について調べているという言葉が出てきていた。そして九と続くとも。
佐伯さんの口ぶりからして九という数字に特別な意味があるとは思えなかった。二、三、四ときて、たまたまタイミングが合わなかったから九になった。時間があれば五、六、七と続いたのだろう。そんな気がする。
だから数字の並びに意味は無さそうだった。となると、卓球、猫カフェ、ボーリング、会議の並びに意味があるのかもしれない。そう思って考えて見るけれど、出鱈目だった。こっちにも関係があるとは思えない。
それなら、考えられるのは動機のほうだけれど。
そう考えていると僕はまるで獲物を見つけたときの目に捕らえられた。バッタリ出会ったのは大川さんだった。
僕は驚きで一歩後退する。
「もしかして角待ちですか?」
「食パンはもう胃の中だよ」
「自然エリアを歩いていたはずですけど」
「奇遇だね。私も自然エリアを歩いてた」
そしてたまたま同じ通路に合流する道を歩いていた。
だから出会った。
それはそうだけど。
「ええと、とりあえずこの先のことはだいたい察しがついています、って苦言を呈してみます」
「あれ、まだ何も言ってないけど」
「目が語っていました」
「私の目がそう話したの? 日が暮れてないのに?」
「夜なら話すんですか?」
「自分が寝ているときのことなんて誰にも分からないよね?」
そう言って大川さんはおどけてみせる。
もしかしたら寝ている間の世界というのは別の形をしているのかもしれない。喋る絵画、笑い出す椅子、踊るコンパス。まあ、冗談だけれど。
「歩田くんは、今夜は暇?」
「ですよね。そう思って空けておきました」
「少し付き合ってくれない?」
「……分かりました。今回だけですよ」
「君はいつもそう言うね」
ということはあまりこの言葉も機能していないのかもしれない。そういえばこの言葉に匹敵する一生のお願いという言葉を大川さんは言ったことがなかった。
「場所はどこですか?」
「叶枝の部屋って言いたいところだけれど、歩田くんがいるならそうはいかないか」
つまり佐伯さんもいるということ。
それは特別変わったことではない。
大川さんによく捕まるといえば佐伯さんもそのうちの一人だった。
「キッチンってどこにあったっけ?」
「レストランとか頂点にある食堂、あとフードコートとかですね」
「それはちょっと面白くないよね」
「飲むつもりならそうですね」
「それって飲めない君が言うことかな」
僕は「飲まないだけです」と答える。
大川さんの表情が固まった。
「え、そうなの?」
「そうですけど」
「じゃ今まで飲めないふりをしていたんだ?」
「そんなことした記憶はないですけど。単に飲む理由が無かったからだと思います」
「そんなもの?」
「そんなものじゃないですか?」
「難しいね」
「単純だと思いますけど」
「君のことがだよ」
そのことに対してもやはりそんなに難しいだろうかと僕は考えた。けれど言ったところでつまらないような気がしたので、そのことを口にはしなかった。
「そう言えば、リラクゼーションエリアにホームパーティーみたいな場所がありませんでしたっけ?」
「え、ああ。さっきの話に戻ったんだね。あったかな。何階?」
「二階の隅の方の」
「ああ、あそこのことだね。そう言えばそうだ」
僕は「何時にそこ集合ですか」と聞いた。
「七時にしようか」
そういうわけで僕たちは一旦別れることとなる。